サルコペニアと摂食嚥下障害ー4学会合同のポジションペーパーよりー

サルコペニア
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理学療法士

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【Point 1.】2019年1月に、4学会合同のポジションペーパー(声明文)が発表された

【Point 2.】「加齢」と「低栄養」がサルコペニアと摂食嚥下障害の共通点として報告されている

【Point 3.】現状と問題点を把握しておくことで、病態の把握に役立つかもしれない

嚥下に関するポジションペーパーが発表されました

飲み込み(嚥下)は歳をとるにつれて難しくなります。

むせ込むことが多くなったり飲み込みがうまくいかなかったりする場合、摂食嚥下障害の可能性があります。

摂食嚥下障害は高齢者に多く見られ、特に入院中の高齢者ではそのリスクが高くなると考えられています(参考文献・参考資料1)。

また最近では、加齢に伴う全身の筋肉量の低下を主とした「サルコペニア」と関連しているとも言われています。

そこで今回は、2019年の1月にサルコペニア・フレイル学会(参考文献・参考資料2)、日本摂食嚥下リハビリテーション学会(参考文献・参考資料3)、日本嚥下医学会(参考文献・参考資料4)、日本リハビリテーション栄養学会(参考文献・参考資料5)の4学会が合同でまとめたサルコペニアと摂食嚥下障害のポジションペーパー(声明文)についてご紹介します。

嚥下機能とサルコペニアの共通点

サルコペニアは全身の筋肉量(骨格筋)が減少していくことで、筋力や身体機能が低下していく状態を表します。

一方で、摂食嚥下機能に関与する筋肉(横紋筋)は全身の筋肉とは異なる特性を有しています。

例えば、全身の筋肉は意識しないと動かすことがないため、意図的に筋肉を使わないと筋肉が萎縮していきます。

一方、摂食嚥下機能に関与する筋肉は呼吸など無意識な時でも働くことから、何もしていなくても筋肉を使っており、筋肉が萎縮しにくいと考えられています。

しかしながら、全身の筋肉と嚥下に関与する筋肉には共通した特徴も報告されています。

例えば、「加齢」と「低栄養」による筋肉量への影響です。

冒頭にてお伝えしたとおり、摂食嚥下障害は高齢者に多く見られます。

特に、入院した際に食事をしてはいけない状態が数日続いただけでも、摂食嚥下障害になるリスクが高くなると言われています。

また、全身のサルコペニアを認めている高齢者の方が摂食嚥下障害になるリスクが高くなることや摂食嚥下障害に伴うむせ込みなどによって、喉(のど)の筋肉が過剰に働き、筋肉がやせ細ってしまうことが報告されています。

加えて、「加齢」も全身の筋肉量(骨格筋)の減少に強く関与します。

これらのことから、摂食嚥下機能に関する筋肉(横紋筋)と全身の筋肉量(骨格筋)の減少は、加齢と低栄養が影響するという点で共通していると考えられます。

サルコペニアの摂食嚥下障害とは??

これは、端的に言えば全身と嚥下筋のサルコペニアによって生じる摂食嚥下障害と定義され、全身のサルコペニアと摂食嚥下障害の双方を有している状態を指します。

全身のサルコペニアは「サルコペニアの新たな定義と指標!ーヨーロッパからの最新の報告ー」でもお伝えしましたが、いくつかの定義と診断基準があります。

しかし、どの定義や診断においても全身の骨格筋量を測定することが必要になりますので、骨格筋量の測定は定期的に行った方が良いでしょう。

実際の論文の中では、「サルコペニアの摂食嚥下障害」の診断の流れに関してフローチャートを用いて解説されていますので、ぜひ一度見てみてください。

原因は様々

全身のサルコペニアは、加齢が原因である “一次性” と、活動量や食事量の低下、疾患など、生活習慣や病気が原因である “二次性” に大きく分けられます。

したがって、今回ご紹介しているポジションペーパー(声明文)でも、「サルコペニアの摂食嚥下障害」も “一次性” と “二次性” に分類して整理していく必要があるとしています。

なお、神経筋疾患によるサルコペニアは「サルコペニアの摂食嚥下障害」の原因には含まれませんので、注意しましょう。

未解決課題もまだ多い

ここまで、2019年の2月に発表された「サルコペニアの摂食嚥下障害」に関するポジションペーパー(声明文)のご紹介をしました。

この声明文ではまだ未解決な課題や議論の必要がある項目の例として、以下に記したものを挙げています。

  • 嚥下筋のサルコペニアはどのように診断されるべきか?
  • 摂食嚥下障害が一次性のサルコペニアから生じるのか?
  • 適切な診断基準や診断方法は?

現状分かっていることと未解決であることを整理しておくことで、病態の理解や病状の把握に役立つかもしれません。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】Geriatr Gerontol Int. 2019 Feb;19(2):91-97.

【筆頭著者】Fujishima I

【タイトル】Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations.

【PMID: 30628181