【Point 1.】サルコペニアと認知症は高齢化問題の中心を担っているといっても過言ではない
【Point 2.】10本の論文をまとめた結果、サルコペニアは認知機能の低下と関連することが示された
【Point 3.】ひとくくりに言えば「運動」が予防に効果的だが、その目的に応じて運動の種類を使い分けよう!
我が国の高齢化問題は深刻です
高齢化問題と聞くと何を思い浮かべますか?
老々介護、社会保障費の増大、地方の過疎化…
メディアでは昨今様々な視点でこの問題について議論が交わされています。
今回ご紹介する報告では、この高齢化問題にも直結する「サルコペニア」と「認知機能」が関連しているかどうかを検証しました。
サルコペニアは加齢に伴う筋肉量の減少と定義されており、歳をとるにつれて身体が弱っていく「身体的フレイル」に直結する状態です。
筋力や体力が歳をとるにつれて衰えていくと、記憶力などの認知機能は果たしてどのようになっていくのでしょうか。
過去に報告された10本の論文を集積
この報告は、過去に発表された論文を集め、その結果をまとめる手法を用いています。
この方法は多くの人のデータを結果に反映することができるため、得られた結果の確からしさは高いと考えられています。
まず始めに、インターネットを用いて過去にサルコペニアと認知機能との関連を研究した報告を集めました。
検索の結果274の論文を確認しましたが、この研究に関係のない報告も混ざっていました。
複数人の専門家でこの研究に関係のない報告を取り除いていった結果、最終的に10本の報告が残りました。
この10本の結果をまとめたものを次にお伝えいたします。
サルコペニアと認知機能は “関連している” ことが明らかに
10本のうち6本の論文、総勢9,703名のデータを再度解析した結果、10.5%の方にサルコペニアを認め、そのうち40%もの人が認知機能が低下していることが分かりました。
一方で、サルコペニアを認めなかった方のうち、認知機能の低下を確認出来たのは25.3%でした。
この結果から、サルコペニアは認知機能の低下と関連することが明らかとなりました(オッズ比 2.5)。
認知機能の低下は、MMSE (Mini-Mental State Examinatiion) と呼ばれるテストを用いた報告がもっとも多く、その他に記憶力のテスト(Test Your Memory)や認知機能に関する質問紙(Short Portable Mental Status Questionnaire)を用いていた報告が含まれていました。
一方、サルコペニアの定義にはEWGSOP (ヨーロッパのサルコペニア診断基準) やFNIH (アメリカの団体から報告されたサルコペニア基準) 、AWGSP (アジアのサルコペニア診断基準) を用いて定義した報告が含まれていました。
どっちが原因かははっきり分からない
この研究では一時点でみた際の割合を報告したもの(横断研究)を多く使用しました。
この研究のデメリットは時間の経過を考慮していないため、サルコペニアと認知機能の低下のどちらが原因なのかがハッキリしていないことが挙げられます。
また、この研究で用いられた認知機能の低下の基準は、それぞれの過去の報告によって異なっていました。
つまり、認知機能の低下を判断する基準は統一されていませんでした。
これらの点は、筆者らも研究の限界であると述べています。
サルコペニアの予防も認知症の予防も日々の運動から
今回ご紹介した報告から、認知機能の低下とサルコペニアが関連していることが示されましたが、両者を効率的に予防する方法は何かあるのでしょうか。
2017年に発行された本邦のサルコペニア診療ガイドラインによると、サルコペニアを予防するには定期的な運動、そして高たんぱくな食生活が大切だと記載されています(参考文献・参考資料1)。
具体的には1日の総身体活動量や余暇身体活動量、1日あたりの歩数で評価した定期的な運動習慣がサルコペニアの発症リスクに関与していることが言われています。
また、体重あたり1g以上のたんぱく質を摂取することが強く推奨されています。
「栄養失調とフレイルから高齢者を守る!その秘訣はたんぱく質にあり!」では、実際に体重60kgの人が1日にどのような食事を摂ると良いのか、具体的なメニューを交えて説明しています。
一方、認知症の予防にも定期的な運動が効果的であると考えれられています。
ここで言う運動は、先ほどお伝えした歩数や活動量ももちろん重要ですが、「考えながら身体を動かす」ことがさらに効果的かもしれません。
「高齢者にゴルフって効果的?!-日本人を対象とした報告から-」では、ゴルフを半年間続けることで、物語などを記憶する「論理的記憶能力」が改善することが示されました。
これは私の考えですが、ただ単純に身体を動かすだけでなく、他者とのコミュニケーションをとったり、ゴルフのスイングなどフォームを考えながら身体を動かしたりすることで、脳がより強く活性化されるのかもしれません。
サルコペニアの予防も認知症の予防もひとくくりに言ってしまえば「運動」が効果的です。
しかし、効果をしっかりと求めたい方は、ご自身の状態や運動の目的をきちんと把握した上で継続していくことが大切でしょう。
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】J Nutr Health Aging. 2019;23(6):525-531.
【筆頭著者】Cabett Cipolli G
【タイトル】Sarcopenia Is Associated with Cognitive Impairment in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis.
【PMID: 31233073】