栄養管理をしている肥満な高齢者には有酸素運動or筋トレのどっちが効果的?

運動知識
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理学療法士

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※ 本記事は2021年5月22日に一部修正されました。

【Point 1.】高齢者の場合、定期的な運動が健康を維持するために効果的であることが報告されている

【Point 2.】肥満な高齢者では、食事のコントロールと並行して運動を行うことが効果的だった

【Point 3.】場合によっては専門家の意見を交えながら、食事と運動の管理をしてみよう!!

運動には有酸素運動なのか?筋トレなのか?

定期的な運動は高齢者の運動機能を改善させることに繋がり、フレイルな人ほど効果的であることが、「高齢者が定期的に運動すると運動機能は良くなる??ー28の論文からー」にてご紹介した報告で明らかとなっています。

糖尿病を有する高齢者を対象とした報告をまとめると、筋トレは効果的であることを以前「筋力トレーニングは高齢の糖尿病患者に有効??ー8つの論文の結果からー」にてご紹介しました。

このように、一般的な高齢者が有酸素運動や筋トレを行った場合、多くの報告で「効果がある」ことが示されてきています。

では、肥満を有する高齢者に対して、有酸素運動や筋トレといった運動はどの程度効果的なのでしょうか?

今回は、食事のコントロールに加えて有酸素運動と筋トレの効果を検証した報告をご紹介します。

半年間の目標を設定した上で厳密な管理を実施!

今回の研究は Lifestyle Intervention Trial in Obese Elderly(LITOE)と呼ばれる研究プロジェクトの1つとして行われました。

この研究の対象者は、下記の条件にあった160名としました。

  • 65歳以上の高齢者であること
  • BMIが30以上の肥満者であること
  • あまり運動をしていないこと(エクササイズが1時間/週未満)
  • 直近で体重の減少がないこと
  • 直近の6カ月で、飲んでいる薬に変化がないこと

そのうえで、対象者を40名ずつ、ランダムに4つの群に分類しました。

  • 体重管理と運動介入を行わない群(コントロール群)
  • 体重管理と有酸素運動を行う群(有酸素群)
  • 体重管理と筋トレを行う群(筋トレ群)
  • 体重管理に加えて有酸素運動と筋トレを行う群(混合群)

メインの結果は、研究開始6か月後の身体機能(Physical Performance Test)の変化としました。

Physical Performance Test は、約15mの歩行や椅子からの立ち上がりや階段の上り下りなど、7つの項目で構成されており、身体機能を総合的に評価することができます。

また、研究開始時からの体重の変化を1週間ごとに記録するとともに、栄養士による指導のもと、1日当たりの栄養摂取量を以下のように設定し、半年間で体重を10%減量させることを目標としました。

  • 摂取カロリー:500~750 kcal の制限
  • たんぱく質量:体重1 kg あたり1 g

加えて、有酸素群では、40分間の有酸素運動の前後に10分間の柔軟体操と10分間のバランス練習を含めた計60分間の運動を週3回行いました。

このとき、有酸素運動はトレッドミル(ベルトコンベアの上で歩く機械)やサイクリング、階段の上り下りで構成されました。

一方、筋トレ群では、40分間の筋トレの前後に10分間の柔軟体操と10分間のバランス練習を含めた計60分間の運動を週3回行いました。

筋トレには上半身の筋トレと下半身の筋トレを合わせた9つのプログラムで構成されていました。

混合群では、運動の前後に10分ずつの柔軟体操とバランス練習を行い、合計で75分から90分の運動を週3回行いました。

徹底的な食事管理は減量に大きく貢献!!

解析の結果、体重管理を行った群(コントロール群以外の群)では、時間の経過に伴って体重が減少していきました。一方で、コントロール群の体重は6ヶ月間で大きな変動はありませんでした。

つまり、食事管理などの体重管理が体重減少に効果的であり、筋トレや有酸素運動による差はさほどないと考えることができるでしょう。

有酸素運動と筋トレを組み合わせれば身体機能はより改善する!

有酸素運動を行った群(有酸素群、混合群)では、研究を始めた段階と比較して体力が有意に改善していました。

ここでの体力は、「最大酸素摂取量(VO2max)」を用いて定義されました。

最大酸素摂取量とは、運動した際に取り込んだ酸素の最大値のことを指します。酸素摂取量は、運動強度(METs)を算出する際にも用いられます。

最大酸素摂取量やMETsに関する詳しい説明は、「運動不足を改善すると体力だけでなく心臓の機能も改善する?!ー2年間の検証からー」をご参照下さい。

一方で、筋トレを行った群(筋トレ群、混合群)では、研究を始めた段階と比較して筋力が有意に改善していました。

ここでの筋力は、上半身の力や下半身の力(kg)を合計して算出されました。

さらに、有酸素群、筋トレ群ともに、コントロール群と比較してPhysical Performance Testを用いて評価した身体機能が有意に改善していました。

しかし、有酸素運動と筋トレの双方を行った混合群では、有酸素群や筋トレ群と比較して更に身体機能が改善しました。

ポイントは、専門家による厳格な管理の下で得られた結果であること

今回の研究から、肥満な高齢者を対象に適切な指導と管理の下で体重コントロールと運動介入を行った場合、半年後に体重は減少し、体力や筋力は改善することが明らかとなりました。

今回ご紹介した研究でのポイントは、厳格な食事管理と定期的な運動を併用したことです。

一般的に高齢者は栄養素が不足することが懸念され、「栄養失調とフレイルはとなり合わせ??」でもお伝えしたように、タンパク質を積極的に摂取することが望まれます。

一方で今回ご紹介した報告は、タンパク質の摂取量は推奨通り設定されましたが、併せて厳格なカロリーコントロールが行われました。

この低カロリー高タンパクな食生活が、体重減少に繋がったものと思われます。

しかしながら、この報告でのカロリーコントロールはかなり厳しい条件に設定しています

実際に食事制限による体重コントロールを行う際には、体調などに十分注意した上で実践するか、始める前に管理栄養士などの専門家に相談してみても良いでしょう。

「高齢者が定期的に運動すると運動機能は良くなる??ー28の論文からー」でもお伝えしたように、定期的な運動は高齢者に効果的であることが多くの研究で報告されています。

一方で、今回の研究で新たに示された強みは、厳格な食事管理(カロリーコントロール)を行った場合でも、適切な運動を心がければ効果が期待できる点でしょう。

ただし、この結果は肥満な高齢者を対象にしていることや、栄養士の管理の下で高タンパクの食生活を心がけていたことに注意が必要です。

また、今回の研究では、運動は理学療法士などの専門家が段階的に負荷を調整していました。

今後、本研究を参考にして健康増進を目的とした運動を実行する場合には、専門家と相談しながら、運動負荷を設定してみることをオススメします。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】N Engl J Med. 2017 May 18;376(20):1943-1955.

【筆頭著者】Villareal DT

【タイトル】Aerobic or Resistance Exercise, or Both, in Dieting Obese Older Adults.

【PMID: 28514618