認知症の重症化を食い止めるには?

認知機能
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”この記事を書いた人”
舩津康平

理学療法士(PT)/公衆衛生系大学院

認知症は突然やってくる?

認知症とはある日突然なってしまうものでしょうか?

分類や原因よって異なりますが、多くは認知症は突然発症するものではなく、前段階があると言われています。

この前段階の状態を、”軽度認知機能障害 (Mild Cognitive Impairment: MCI)” と呼びます。

認知症という病気は多くの方に知られていますが、軽度認知機能障害 (MCI) と言う状態を知らない方は多いと思います。

この記事では、「認知症の前段階とは何か・進行させないための方法を知りたい」という方に向けて、軽度認知機能障害 (MCI) の言葉の意味や、認知症の進行を遅らせる方法について解説していきます。

軽度認知機能障害とは?

軽度認知機能障害 (MCI) とは、「物忘れが主たる症状だが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態」と言われています(参考文献・参考資料①)

例えば「5分前に話した内容を忘れる事が多くなった。」と感じる場合は当てはまるかもしれません。」

この状態の方がどのくらいいるかというと、65歳以上の高齢者のうち、15〜25%は軽度認知機能障害 (MCI) の状態と考えられています(参考文献・参考資料②)

人数に換算すると、日本では540万人〜900万人が軽度認知機能障害 (MCI) に該当することになります。

軽度認知機能障害 (MCI) は進行を予防できる可能性がある

軽度認知機能障害 (MCI) から認知症に進行し介護が必要になるケースは多くあると考えられます(参考文献・参考資料②)

一方、軽度認知機能障害 (MCI) のうち、3-5人に一人は正常範囲の認知機能に戻る可能性があるとも言われています(参考文献・参考資料②)

よって、予防策や改善策をとる事で認知機能が低下せず、より長く自立した生活を送れ、ご家族の負担を減らせるかもしれません。

認知症の進行を予防するには?

世界保健機関 (WHO) は、認知症の進行を予防する為に下の表の項目を管理する事をガイドラインで推奨しています(参考文献・参考資料③)

管理項目 ポイント
運動 健常者の運動は強く推奨される。
MCIの方の運動は条件付きで推奨される。
高血圧高血圧を有する方に対して…
ガイドラインに沿った降圧は強く推奨される。
認知症予防目的の降圧は条件付きで推奨される。
糖尿病糖尿病を有する方に対して…
ガイドラインに沿ったコントロールは強く推奨される。
認知症予防目的のコントロールは条件付きで推奨される。
栄養全ての成人に対してバランスの良い食事を条件付きで推奨。
健常者、MCIの方に地中海食を条件付きで推奨。
全ての成人に対してサプリメント*は強く推奨しない。
表(参考文献・参考資料④の内容を元に編集部作成)

*: ビタミンや多価不飽和脂肪酸など

とは言っても項目が多く、一気に全ての対策をとるのは難しいかもしれません。

まずは食事・運動について以下のような生活習慣を作れるように支援してみてはいかがでしょうか。

■ 運動:30分程度のウォーキングを週に3〜5回程度行う
■ 食事:地中海食(野菜・果物・豆類・魚介類を用いたバランス良い食事)を実践する

認知機能と運動機能の関連について検証した論文の例として、次の記事も参考にしてみてください。

また、近年は軽度認知機能障害 (MCI) をどのように改善するかが研究されています。

ある研究では、軽度認知機能障害 (MCI) の方を対象に、上記にある運動と食事の介入、さらには認知機能のトレーニング、高血圧や脂質異常症などの管理を行いました(参考文献・参考資料⑤)

この結果、運動と食事も加えた多面的な介入が認知機能の向上に有効な事が分かりました。

生活習慣を見直し、表にある項目を管理する事で、認知症の発症予防や、進行を遅らせられる可能性が高まるでしょう。

生活習慣の改善には継続が必要で、それにはいくつかポイントがあります。

運動の継続のポイントはこちらの記事を参考にしてみてください。

一人で抱え込まないようにしよう

以上より、生活習慣を良くすると認知症の予防や進行を遅らせる可能性がある事が分かりました。

しかし、人の生活習慣を変えるのは容易ではありませんよね。

実際に、軽度認知機能障害 (MCI) の方を支援する側が頑張りすぎて負担が大きくなってしまうケースがよくあります。

なので、支援を一人で抱え込まないようにしましょう。

支援する方が体調を崩してしまっては元も子もありません。

疲弊してしまう場合の対策として、”認知症初期集中支援チーム” を活用する事を提案します。

認知症初期集中支援チームとは「複数の専門家が、認知症と疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、観察・評価を行った上で、家族支援等の初期の支援(概ね6か月)を行うチーム」の事を言います(参考文献・参考資料⑥)

利用するメリットとして、診断・治療の早期開始 、介護サービスの利用、介護負担の軽減、社会や地域とのつながりができる事などがあります。

これは、各市町村の地域包括支援センターなどに設置されています。

もし認知症が気になっているのであれば各地域に設置されているお近くの「地域包括支援センター(もしくは高齢者支援センター)」にご相談すると良いかと思います。

認知症初期集中支援チームのサービスに加えて、介護保険の申請に関する情報や町内会の活動などを紹介してくれるので、参考にしてみてください。

【Point 1.】認知症には一歩手前に軽度認知機能障害という状態がある

【Point 2.】軽度認知機能障害の進行を遅らせるには生活習慣が鍵

【Point 3.】専門家による「認知症初期集中支援チーム」を活用してみよう!


参考文献・参考資料

  1. 軽度認知障害 | e-ヘルスネット(厚生労働省)(2021年3月14日閲覧)
  2. 認知症疾患診療ガイドライン2017. 日本神経学会
  3. World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia – WHOguidelines
  4. 島田裕之. 認知症の予防・発症遅延. 神経治療. 2020. 37. 340-343
  5. Ngandu, et al. A 2 year multidomain intervention of diet, exercise, cognitive training, and vascular risk monitoring versus control to prevent cognitive decline in at-risk elderly people (FINGER): a randomised controlled trial. The Lancet, 2255-2263. 2015
  6. 厚生労働省 認知症初期集中支援チーム 医療・ケア・介護サービス・介護者への支援(2021年3月14日閲覧)