血糖値改善の運動は朝と夕方のどちらが有効?

基礎知識
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理学療法士(PT)

【Point 1.】運動の時間帯による血糖コントロールへの影響は、運動時間や強度に比べて不明な点が多い

【Point 2.】夕方に行う運動は夜間の血糖値を改善させるとともに、LDLコレステロールや中性脂肪を改善させた

【Point 3.】血糖コントロールのための運動は、朝方よりも夕方の時間帯が効果的かもしれない

血糖コントロールに対する運動効果は時間帯の影響を受ける?

時代の変化に伴い、生活習慣病を持つ方は年々増加しています。

中でも糖尿病は、悪化することで網膜症神経障害腎障害の三大合併症を発症することから、その予防のために血糖コントロールがとても重要です。

また、三大合併症だけでなく、血糖コントロールが将来の運動能力に影響することも報告されています。

一般的に、高血糖を改善する手段として、運動が推奨されています(参考文献・参考資料①)

運動を行う際、強度や時間、種類を気にすると思いますが、「時間帯はいつが効果的なのか」と疑問に思ったことはありませんか?

これまでの報告では、午前よりも午後の運動が効果的であったという報告もあれば、どちらも変わらなかったという報告もあります(参考文献・参考資料②③)

しかし、それらの研究では食事の構成やタイミングが統一されていないといった限界がありました。

今回紹介する研究では、研究期間中の食事を高脂肪食に統一し、その期間中に行う朝方と夕方の運動効果について検証しています。

過体重または肥満の男性を対象に運動効果を検証

この研究はランダム化比較試験であり、下記の包含基準と除外基準により、適応と判断された25名が参加しました。

包含基準
男性、30-45歳、BMI27.0-35.0、座りがちな生活習慣

除外基準
既往歴(心臓病、糖尿病、肥満手術)、運動・摂食機能障害、内服、喫煙、シフト勤務の従事、厳格な食事制限、数か月体重が不安定

そのうえで、参加者25名をランダムに以下の3群に分けました。

■ 運動なしの対照群(コントロール群):8名
■ 朝方(6:30)に運動を行う群(AM運動群):9名
■ 夕方(18:30)に運動を行う群(PM運動群):8名

研究の間は、決められた高脂肪食(脂質65%、炭水化物15%、タンパク質20%)を毎日7:30、13:00、19:30の3回決まった時間に摂取しました。

研究期間は11日間で、その内、最初の5日間は全対象者ともに運動は実施しない生活を送り、6日目以降からAM運動群とPM運動群は1日1回の運動を行いました。

運動プロトコルは以下の通りです。

■ 6日目、8日目、10日目:高強度インターバル運動
➡1分間の高強度サイクリングと1分間の低強度サイクリングを交互に計20分

■ 7日目、9日目:有酸素運動
➡7日目は中強度サイクリングを40分、9日目は中強度サイクリングを60分

介入期間の前後で、体力の指標である心肺機能や血糖・脂質パラメータを含む血液サンプルの評価を行い、比較しています。

夕方の運動は朝の運動よりも血糖、コレステロール値が改善

各群で介入前と比較して改善したパラメータを以下にまとめています。
(◯:改善 ×:改善なし)

AM運動群PM運動群
血糖値×
夜間平均血糖値×
インスリン×
インスリン抵抗性×
コレステロール×
LDLコレステロール×
中性脂肪×
心肺機能

すなわち、夕方の時間帯での運動は、血糖やインスリン、脂肪パラメータを改善しつつ、体力の向上に効果的だったという結果になります。

仕事や学校終わりの運動で、効果的な血糖コントロールを!

今回紹介した研究では、朝方よりも夕方に行う運動が、体力向上、血糖・脂質パラメータの改善に有効でした。

糖尿病や糖尿病予備軍の方にとっては夕方からの運動が血糖コントロールに効果的である可能性が示唆されました。

ただし、この研究では以下のような条件で行われたことに留意すべきです。。

①炭水化物の摂取量が食事全体の15%であること
②運動期間が5日間と短期間であること
③過体重、肥満の対象者であること

これらの条件が変わることで、時間帯の効果は変化する可能性は十分にあります。

また、筋トレの効果に関しては、朝と夜で効果に差がないことも報告されています。

運動の効果に関しては、多くの報告で一貫してポジティブな結果が報告されています。当サイトでも紹介している記事も是非ご参照ください。

運動習慣のない方はまず少しずつ運動を始めていき、運動習慣のある方は自身で効果を実感できる時間帯を模索してみてはいかがでしょうか?


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】Diabetologia.

【筆頭著者】Trine Moholdt

【タイトル】The effect of morning vs evening exercise training on glycaemic control and serum metabolites in overweight/obese men: a randomised trial

【PMID: 34009435


参考文献・参考資料

  1. 日本糖尿病学会,糖尿病診療ガイドライン2019
  2. Mancilla R et al., Exercise training elicits superior metabolic effects when performed in the afternoon compared to morning in metabolically compromised humans.Physiol Rep . 2021 Jan;8(24):e14669. doi: 10.14814/phy2.14669.
  3. Teo S et al., The Effect of Exercise Timing on Glycemic Control: A Randomized Clinical Trial. Med Sci Sports Exerc . 2020 Feb;52(2):323-334.