活動量との関連から「ソーシャル・キャピタル」の概念を紐解く

Senior_citizens フレイル
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理学療法士

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【Point 1.】ソーシャルキャピタルとは、社会的なつながりを概念化した用語である

【Point 2.】このような「社会的なつながり」は身体活動量と関連することが分かった!

【Point 3.】自身のもつネットワークのつながりを意識していこう!

ソーシャルキャピタルという言葉をご存知ですか?

 専門家の間では最近よく耳にするようになったこの言葉。あなたはどのように解釈していますか??

平成20年に日本総合研究所から刊行された報告書では、「ネットワーク(社会的なつながり)」「規範」「信頼」といった社会組織における特徴によって、共通の目的を達成するために協調行動を導くもの(一部改変) と記載されておりますが、実際には様々な定義が提唱されています(参考文献・参考資料①)

この用語はもともと、社会的という意味を持つ「ソーシャル(social)」という言葉と、首都や拠点、主体といった意味を持つ「キャピタル(capital)」という言葉を掛け合わせたものになります。

この言葉から想像するに、地域の活動に参加したり近所の人と立ち話をしたりするなど、他人との関わり合いについて着目した用語であることが汲み取れるかと思います。

これらのことをふまえると、他人との関わり合いが多い人、もしくは地域の活動などへ積極的に参加している人ほど身体を動かしているのではないか?と、気になるところでしょう。

そこで、今回は活動量とソーシャルキャピタルとの関連を見た報告をもとに、ソーシャルキャピタルの概念について紐解いていきましょう。

腕時計型の活動量計を用いて日々の活動をチェック!

 今回ご紹介する研究はNSHAP (National Social, Health, and Aging Project) と呼ばれる大規模な研究プロジェクトから報告されました。このプロジェクトは高齢者の身体的、認知的、社会的健康に関する広範なデータを集め、将来の病気のリスクなどとの関連を調べる大規模な研究です(参考文献・参考資料②)

対象者はNSHAPに登録されていて、かつ活動量計を用いて日々の活動量を評価した673名でした。

活動量計は手首に装着する腕時計型のものを使用しました(参考文献・参考資料③)

この活動量計は加速度計が内蔵されており、活動の量や強度をある程度細かく計測することが可能です。この研究では72時間(3日間)の活動量を測定し、その後の解析に用いました。

この研究のメインである「ソーシャルキャピタル」は、次の7つの項目で構成された質問紙を用いて評価しました。

 ■ 社会的なネットワークの大きさ
 ■ ネットワークにおける友人の割合
 ■ 友人や親戚との関わりの程度
 ■ 近所の人への訪問の頻度
 ■ 組織化されたグループの会議への参加の頻度
 ■ 宗教的な活動やサービスへの参加
 ■ ボランティア活動の頻度

ネットワーク(社会的なつながり)が大きければ大きいほど、また、ネットワーク内の友人が多ければ多いほど、ソーシャルキャピタルが良好であると解釈できます。今回はソーシャルキャピタルと活動量の関連を、項目ごとに検証しました。

ソーシャルキャピタルは活動量と関連がある!

 解析の結果、質問紙で評価したソーシャルキャピタルのうち、「社会的なネットワークの大きさ」「ネットワーク内における友人の割合」「近所の人への訪問の頻度」「組織化されたグループの会議への参加の頻度」が、活動量と関連していることがわかりました。

宗教上の活動などと活動量との関連はなし

ネットワークの広さやネットワーク内における友人の割合などが活動量と関連したものの、「友人や親戚との関わりの程度」や「宗教的な活動やサービスへの参加」と活動量との関連はありませんでした。

「近所の人への訪問の頻度」と活動量との関連があった一方で「友人や親戚との関わりの程度」と活動量との関連がなかった理由として、活動そのものの性質や活動に参加するために、最低限の身体活動を必要としているかどうかが関係しているかもしれないと筆者らは考察しています。

つまり、単に他者との関わりを持つだけでなく、スポーツや旅行など、実際に身体を動かすような関わりを持つことが、活動量を増やすためのポイントなのかもしれません。

ネットワークの持つ特徴を活かしていこう!

今回ご紹介した報告から、ソーシャルキャピタルはネットワーク(社会的なつながり)の広さや内容、関わる頻度などによって、日々の活動量と関連するものとしないものがあることが分かりました。

では、いま一度ご自身のネットワーク(社会的なつながり)に少し目を向けてみましょう。ご自身が友人や知人と関わるタイミングやつながりには、どのようなものがありますか?

親しい方と出かけたり用事で外出したりすることが多い方は、無意識のうちに活動量を増やしてくれているかもしれません。それは知らず知らずのうちに皆さんの運動に対するモチベーションを維持してくれているでしょう。

もちろん、あなたの身の回りのことで身体を動かすきっかけが少なくても心配ありません。

ネットワークを広げるための一歩目として、友人の家に行くことを計画したり、何かしらのボランティア活動に参加してみたりすることをオススメします。それだけでも、結果的に活動量を増やせることが期待できます。または今あるネットワーク(つながり)の中で、まだ話したことの無い方に声をかけてみるだけでも新たな進展が生まれるかもしれません。

現状からまず一歩だけ。ネットワークを広げてみてはいかがでしょうか?


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】BMC Public Health. 2018 Jun 27;18(1):804.

【筆頭著者】Ho EC

【タイトル】Social capital predicts accelerometry-measured physical activity among older adults in the U.S.: a cross-sectional study in the National Social Life, Health, and Aging Project.<br>

【PMID: 29945588