血糖コントロールは将来の運動能力に影響する?!-フィンランドからの報告-

基礎知識
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理学療法士

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【Point 1.】血糖をうまくコントロールできないと、心臓病などのリスクが高まるため、早めに対策することが望まれる

【Point 2.】血糖をうまくコントロールできていない人達は、将来の運動能力が低いことが最新の報告で明らかとなった

【Point 3.】現時点で血糖値異常を指摘されている方は、筋力トレや散歩を行って対策してみよう!

健康診断で血糖値を気にしたことがありますか?

血糖値とは血液の中に含まれる、グルコースとも呼ばれるブドウ糖の濃度の値を指します。

ブドウ糖は炭水化物などが消化されることによって作られ、ヒトが日々活動するために必要不可欠なエネルギーとしての役割を担います。

一般的に、血糖値は高すぎても低すぎてもいけないとされており、様々な状況においても適切にコントロールできるかどうかが大事になります。

つまり、採血をした時の値だけを気にするのではなく、空腹時や食後の値も気にする必要があります。

血糖をコントロールする能力が衰えると、心臓病や脳卒中などを患うリスクが高まります

また、血糖のコントロールがうまくできていない期間が長く続くことによって生じる障害のひとつに、「末消神経障害」があります。

「末梢神経障害」は足先などの感覚が鈍くなっていく障害で、将来的に歩きやバランス能力といった運動能力の低下につながるとされています。

そこで、今回ご紹介する報告では、血糖のコントロールが上手くいかないと将来的に運動能力がどうなるのかを検証してみました。

1930年代から2014年までの経過を観察

この報告は、フィンランドに在住している1078名(男性475名、女性603名)を対象に行われました。

対象の平均年齢は、運動能力を確認した時点で男性は70.8歳、女性は71.0歳でした。

この研究の対象者は全員、1934年から1944年の間にフィンランドにある2つの病院で生まれ、現在も病院の近くに在住している方としました。

したがって、長期間の経過を観察することができた方が対象となっています。

血糖値と血糖をコントロールする能力は、2001年から2004年の間に測定しました。

運動能力は、血糖値を測定した日から10年後に確認を行いました。運動能力の確認には、senior fitness test(SFT)と呼ばれる評価指標を用いました(参考文献・参考資料1)。

このテストは以下の5項目からなる総合テストとなります。

  • 足の力:30秒間で何回椅子から立ち座りができるか
  • 腕の力:重りを持ったまま30秒間で何回腕を曲げ伸ばしできるか
  • 肩の柔軟性:片手を上から、もう片方を下から背中に回した時、どのくらい両手の指が近づくか
  • 足の柔軟性:座ったまま足を床に伸ばし、指先が伸ばした足のどこまで届くか
  • 体力テスト:6分間でどれくらいの距離を歩くことができるか

そのうえで、過去に測定した血糖値が、10年後の運動能力にどのような影響を及ぼすか検討を行いました。

血糖のコントロールが上手くいかないと、将来の運動能力が低い!?

解析の結果、血糖のコントロールが上手くいかないと、将来の運動能力が低いことが明らかとなりました。

また、血糖値を測定した時点で糖尿病と言われていた方は、年齢や喫煙習慣などの様々な要因を考慮しても、他の人たちと比較して将来の運動能力が最も低いことが分かりました。

椅子の立ち座り運動は筋力トレにもなる!

今回の報告から、血糖のコントロールがうまくできていないと、10年後の運動能力が低いことが明らかとなりました。

この結果から筆者らは、血糖のコントロールがうまくいっていない人を早い段階から見つけ、対策を早いうちからしていくべきだと述べています。

また、以前ご紹介した、「筋力トレーニングは糖尿病患者に有効??ー8つの論文の結果からー」では、筋力トレは血糖のコントロールに有効であるとの結果でした。

このことからも、現在、血糖値について医師などから指摘されている方や糖尿病の方は、今からでも対策を始めたほうが良いかもしれません。

先ほど説明したsenior fitness test(SFT)のうち、椅子の立ち座り運動は足腰の筋力トレとして行うこともできます。

大きな負担にはならないため、普段運動をしていない方や高齢者の方にオススメです。

立ち座り体操

この運動のポイントは、手を使わずに足の力だけで立ち上がることです。

なお、キャスターがついている椅子だと転ぶ危険性もあるので、運動する際は安定した椅子を使うようにしましょう。

画像のように一度深くお辞儀をしてから立ち上がると、大殿筋というお尻の筋肉をしっかり使うことができます。

このような筋トレを継続的に行っていくことで、糖尿病を予防できるかもしれませんね。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】Acta Diabetol. 2018 Jul 21.

【筆頭著者】Åström MJ

【タイトル】Glucose regulation and physical performance among older people: the Helsinki Birth Cohort Study.

【PMID: 30032324