筋肉や脂肪の量が睡眠の質に影響?!-最新の前向き研究から-

基礎知識
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理学療法士

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【Point 1.】寝ている間に呼吸が止まってしまうと睡眠の質が下がってしまう

【Point 2.】肥満症にサルコペニアが併発すると、更に呼吸が止まりやすいことが分かった!

【Point 3.】肥満症とサルコペニアの両者を是正していくことが、睡眠の質を改善する糸口になるのかもしれない

※この記事は2021年02月01日に一部リライトされました。

睡眠時無呼吸は肥満症を有する人でなりやすい

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と呼ばれる病気をご存じですか?

これは睡眠中に呼吸が止まった状態(無呼吸)を繰り返すことで、様々な合併症を起こす病気です。

いびきなどの症状があり、肥満症の方になりやすいことが明らかになっています(参考文献・参考資料1)。

また、呼吸が止まってしまうため睡眠の質が下がり、寝不足などを訴える方が多いと言われています。

肥満症はこのほかにも様々な病気に関連していることが知られており、「健康的な体格って??ーイギリス360万人からの報告ー」でもお伝えしたとおり早死にしやすいことが言われています。

一方で、近年では肥満症をさらに細分化して定義した報告が多く見られています。

肥満症に筋肉量の減少(サルコペニア)が併発した状態を示す「サルコペニア肥満」もその1つです。

サルコペニア肥満はただの肥満症やサルコペ二アとは別の病態だとも言われており、未解決な課題が多く残されています。

そこで今回は、2019年5月に発表された、サルコペニア肥満と睡眠時無呼吸との関連を検証した報告をご紹介しましょう。

中高年の睡眠と体組成を調査

この報告はブラジル・サンパウロで行われている前向き研究( Sao Paulo Epidemiologic Sleep Study: EPISONO)から発表されました。

対象者は50歳以上の中高年359名としました。

睡眠の質は以下の3つで評価されました。

  • 質問紙(Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI)
  • アクチグラフィー
  • 睡眠ポリグラフィー(PSG)検査

質問紙は21点満点で構成されており、5点を上回ると「睡眠障害あり」と考えられています(参考文献・参考資料2)。

アクチグラフィーとは腕に装着する腕時計のようなウェアラブル機械で、睡眠の時間や睡眠の深さなどを調べることが出来ます。

睡眠ポリグラフィー(PSG)検査とは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの重症度を調べる際に用いられる検査です。

睡眠中の脳波などを測定し、詳細に解析することが可能です(参考文献・参考資料1)。

今回は、この睡眠ポリグラフィー(PSG)検査の結果を元に「睡眠時無呼吸」を定義し、メインの解析に使用しました。

筋肉や脂肪の量といった体組成は、体内に微弱な電流を流して推定する「インピーダンス法」を用いて測定しました。

そのうえで、筋肉量が少なく、体脂肪量が多い状態の人を「サルコペニア肥満」と定義して、その後の検証を行いました。

サルコペニア肥満は「睡眠時無呼吸」と関連!

解析の結果、サルコペニア肥満を有していた人は睡眠時無呼吸と関連していることが分かり、この結果は様々な因子で調整した後も同様でした。

さらに、サルコペニア肥満を有していると夜間低酸素血症(寝ている間に血液中の酸素の飽和度が低下した状態)の割合が高くなることが示されました。

この関連は肥満症を有している人でも確認されました。

これらの結果からサルコペニア肥満の状態だと、寝ている間に呼吸の回数が減少(もしくは一時的に停止)し、その影響で血液中の酸素の量が低下してしまうものと考えられます。

質問紙やアクチグラフィーとの関連はなし

一方、アンケートにて調査した睡眠の質とサルコペニア肥満との関連は確認されませんでした。

また、腕に装着するタイプのウェアラブル機器(アクチグラフィー)で得られた睡眠の質とサルコペニア肥満との間にも関連はありませんでした。

睡眠ポリグラフィー(PSG)検査のような精密な検査結果との関連性は認められましたが、質問紙などのスクリーニング検査では関連性を認めなかったことから、サルコペニア肥満と睡眠の質との関連を説明するには詳細な検査が必要であると考えられます。

肥満症+サルコペニアで負の相乗効果??

今回ご紹介した報告から、肥満症にサルコペニアが併発した「サルコペニア肥満」を有していると、寝ている間に無呼吸の状態になりやすく、血液中の酸素の量も低下しやすいことが明らかとなりました。

筆者らは今回の結果が得られた理由として、肥満症が睡眠時無呼吸にもたらす影響に筋量減少が負の相乗的な役割をしたのではないかと考察しています。

たとえば、呼吸に関わる筋肉(横隔膜など)の筋肉量が低下していたり、喉部周囲の筋肉量が低下していて肥満によって蓄積された脂肪を支えられるだけの筋肉がなく、気道を狭めてしまうことが考えられます。

特に喉周りの筋肉は「サルコペニアと摂食嚥下障害ー4学会合同のポジションペーパーよりー」でもご紹介したように食事の飲み込みづらさなどにも関与します。

はっきりとした原因は定かではありません。

しかしながら将来的に、肥満症とサルコペニア、この両者を是正することによるメリットの1つに “睡眠の質” の改善も加わるかもしれませんね。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019 May 24.

【筆頭著者】Piovezan RD

【タイトル】Associations between sleep conditions and body composition states: results of the EPISONO study.

【PMID: 31125517