【Point 1.】炎症マーカーが上昇すると、普段以上に体力を消耗する
【Point 2.】炎症マーカーの上昇がサルコペニアと関連していることが示唆された
【Point 3.】生活習慣を改善することで炎症マーカーの上昇を抑えることができるかもしれない
血液中にある炎症マーカー
炎症マーカーとはケガをしたときなどに出現する炎症物質のうち、炎症の程度を予想するのに測定されるものを指します。
たとえば、サイトカインとは細胞間の情報伝達を担う特殊なタンパク質の総称で、炎症反応や免疫応答において中心的な役割を果たします。
採血などによって得られる炎症マーカーは数多くあり、炎症反応や身体の状態に密接に関わっています。
普段は採血をすることもないので、あまり気に止めない方も多いとは思いますが、病院などで治療を行う際は大変重要になります。
炎症反応がある(炎症マーカーの値が高い)と普段以上に体力を使います。
それは身体の組織を破壊し、修復しているからです。
最近では筋肉の量が少ないと炎症マーカーが上がりやすいことも言われています。
そこで今回は、炎症マーカーとサルコペニアとの関連を検証した報告をご紹介しましょう。
血液から炎症マーカーを測定してサルコペニアとの関連を検証
この報告は北京の研究チームから報告されました。
対象者はサルコペニアを有していた60歳以上の高齢者56名と、サルコペニアを有していない高齢者56名としました。
そのうちサルコペニアを有していた32名の高齢者に、サプリメントと筋トレを中心とした生活改善プログラムを12週間実施してもらいました。
筋トレは週3回行ってもらいました。
内容は、5分間のウォーミングアップ、20分間のトレーニング、5分間のクールダウンの計30分で構成されていました。
サプリメントはホエイタンパク質を含んだものを使用し、1日あたり30g摂取してもらいました。
「運動にプロテインを加えるとサルコペニアに効果的?!-健康な高齢女性を対象とした報告-」でもお伝えしたとおり、筋トレに加えてタンパク質をしっかり摂取することで筋力の改善が期待できると言われています。
生活改善プログラムの実施前後で血液を採取し、炎症に関与する血液データ(炎症マーカー)の変化を検証しました。
サルコペニアを有していると炎症反応が高い
まず生活改善プログラムを行う前に採取した血液データの結果をお伝えします。
サルコペニアな高齢者とサルコペニアでない高齢者の血液データを比較したところ、サルコペニアな高齢者で下記の炎症マーカーが有意に高いことが明らかとなりました。
- インターロイキンー6
- インターロイキンー18
- TNF-α
- TWEAK
- レプチン
また、血液中のインスリンとアディポネクチンの量がサルコペニアを有した高齢者で有意に少ないことが明らかとなりました。
生活改善プログラムで炎症マーカーの値が有意に改善
続いて生活改善プログラムの前後で炎症マーカーの値がどのように変化したかを検証しました。
その結果、生活改善プログラムを実施する前と比較して、実施後はTWEAK、TNF-α、インターロイキンー18、インスリンおよびアディポネクチンが有意に改善しました。
また、インピーダンス法で推定した全身の筋肉量も同様に改善を認めました。
炎症マーカーはそれぞれ何を示すのか??
今回の検証の結果から、サルコペニアは様々な炎症マーカーと関連し、定期的な運動と栄養摂取によって改善することが示されました。
今回検証したマーカーのうち、インターロイキンー6とTNF-αは代表的な炎症マーカーです。
インターロイキンー6は炎症や身体の組織が損傷した際に、マクロファージ(貧食細胞)やT細胞などから分泌されるサイトカインの一種です。
インターロイキンー6は全身の炎症反応や造血に関与するなど、様々な役割を持つと言われています。
TNF-αはインターロイキンー6と同様サイトカインの一種です。
TNFとは日本語で「腫瘍壊死(えし)因子」と呼ばれ、がんに関係した炎症物質として発見されましたが、現在では糖尿病や動脈硬化のリスクを高めることが分かっており、肥満だと増加しやすいと言われています。
その他、今回の研究でサルコペニアと関連を認めたインターロイキン-18はインターロイキン-6と同様、全身の炎症反応に関与しています。
TWEAKはTNF-αを誘導する作用を持っており、TNFファミリーと呼ばれるグループの1つに属します。
レプチンは脂肪細胞から作り出され、食欲の抑制とエネルギー代謝の調節に関わるホルモンです。
このように炎症マーカーはサルコペニアだけでなく、様々な病気などに密接に関わります。
また、今回の結果ではサルコペニアの是正を目的とした生活習慣が全身の炎症反応を改善してくれることが示されました。
普段の生活から栄養と運動を心がけることで、慢性的な炎症反応を抑えられるのかもしれません。
一方、今回の研究では検証されていませんが、筋肉が炎症反応によって有害な影響を受けると筋肉量の減少を招き、サルコペニアを来すものと考えられます。
定期的な運動を通して筋肉量を保つよう心がけてみましょう。
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019 Apr 10.
【筆頭著者】Li CW
【タイトル】Circulating factors associated with sarcopenia during ageing and after intensive lifestyle intervention.
【PMID: 30969486】