【Point 1.】血糖のコントロールは、その後の運動能力に影響を及ぼす
【Point 2.】血糖が適切にコントロール出来ていないと、将来フレイルな状態になりやすいことが新たに分かった
【Point 3.】筋トレなどを習慣的に行ってフレイルを予防するとともに、血糖を適切な範囲にコントロールしていこう!
血糖は身体活動と関連しますが、フレイルとはどうなのでしょう?
「血糖コントロールは将来の運動能力に影響する?!-フィンランドからの報告-」でご紹介したように、血糖のコントロールがその後の運動能力に影響を及ぼすことが報告されています。
このことからも分かるように、今の年齢時期から血糖を適切に管理していくことが望ましいでしょう。
一方で、運動能力が低下するとフレイルな状態に陥りやすくなると考えられます。
では、血糖のコントロールが適切でないと、フレイルな状態になりやすいのでしょうか?
そこで今回は、血糖コントロールが上手くいかない人は、将来フレイルな状態になりやすいのかどうかを検証した報告をご紹介します。
2年ごとに血糖を測定し、フレイルとの関連を検証
この報告は Adult Changes in Thought Study と呼ばれる、認知症とアルツハイマー病に着目した前向き研究から発表されました(参考文献・参考資料1)。
対象者は4,723名のうち、2年ごとに追跡調査が可能だった65歳以上の1,848名としました。
この対象者は、研究を始めた段階でフレイルや認知症を有していない方に限定されました。
対象者の年齢の中央値(1,848名中の真ん中の年齢)は76歳でした。
研究を始めた段階から2年間ごとに、HbA1cまたは糖化ヘモグロビンという血糖の指標となる値を測定しました。
糖化ヘモグロビンは、血液中の糖がヘモグロビン(赤血球の成分)に付着くっついたものを指し、HbA1c (%) は血液中のヘモグロビンに対して糖化ヘモグロビンがどの程度あるかを%で示します。
血糖の指標となる値を測定した後、追跡期間を経てフレイルの発症リスクを調べました。
フレイルの判定にはいくつかの基準がありますが、この報告では以下の5つを用いたうち3つ以上に当てはまった場合をフレイルと定義しました。
- 筋力(握力)の低下
- 歩行速度の減少
- 身体活動量の低下
- 体重の減少
- 自己申告による疲労感
血糖値が高ければ高いほどフレイルになりやすい?!
追跡期間の中央値4.8年の間に、合計で578名の方がフレイルな状態になりました。
そのうち糖尿病を有していない対象者に絞り、研究を始めた段階から5年間の血糖値の平均がフレイルのリスクになるか検証しました。
その結果、血糖値が上昇するにつれてフレイルのリスクが上昇していくことが明らかとなりました。
糖尿病治療ガイド2018-2019(参考文献・参考資料2)では空腹時血糖110 mg/dl を正常の範囲だが高い値(正常高値)と定め、ひとつの目安としています。
一方で、この結果は血糖値100 mg/dl を基準とした場合、110 mg/dl だとフレイル発症リスクが約1.3倍程度なので、厳格な血糖コントロールが必要であると言えそうです。
糖尿病を有する人は血糖値が低すぎるのも注意?!
続いて糖尿病を有している方に対象者を絞って、研究を始めた段階から5年間の血糖値の平均がフレイルのリスクになるか検証しました。
その結果、血糖値の上昇と低下のどちらの場合でもフレイルのリスクが上昇する可能性が示されました。
その上で、一番リスクが低いHbA1cの値は7.6%であることが明らかとなりました。
筆者らは、重症な糖尿病患者では血糖値が低下することもあるため、このような結果になったのではないかと考察しています。
厳格な血糖コントロールにも注意が必要??
今回は血糖とフレイルのリスクの関連に着目した報告をご紹介しました。
この報告の結果から、糖尿病を有していない対象者では、血糖が高くなるにつれてフレイルな状態になりやすい可能性が示されました。
一方、糖尿病を有している対象者では、血糖が高すぎても低すぎてもフレイルな状態になりやすい可能性が示されました。
しかしながらこの報告では、研究を始めた段階でプレフレイルな状態の対象者が糖尿病のない群で58.7%、糖尿病のある群で70.0%と多く、元々フレイルな状態に陥りやすかった可能性が考えられます。
したがって、今回の結果を過大に解釈しないよう気をつける必要がありそうです。
プレフレイルに関しては「老衰や虚弱を指す言葉「フレイル」-実は身近な人もなっている??-」に詳細を記載してありますので、合わせてご参照ください。
以前「筋力トレーニングは高齢の糖尿病患者に有効??ー8つの論文の結果からー」では、筋トレを行う事が血糖をコントロールするのに有効である可能性をご紹介しました。
もちろん、筋トレはフレイル予防にも効果的であることが言われていますので(参考文献・参考資料3)、習慣的に行っていきたいですね。
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016 Sep;71(9):1223-9.
【筆頭著者】Zaslavsky O
【タイトル】Glucose Levels and Risk of Frailty.
【PMID: 26933160】