【Point 1.】40万人以上のデータをまとめた結果、運動不足は認知症のリスク因子ではないという結果が得られた
【Point 2.】一方、糖尿病や心臓病、脳卒中の予防には運動が効果的である事が改めて確認された
【Point 3.】認知症に直接的な影響はないが、運動を通して認知症の危険因子である糖尿病や脳血管疾患を予防しよう
いまや要介護の原因の第1位となっている『認知症』
(参考文献・参考資料1)
世界中で認知症の予防や対策法が検討されています。
例えば、当サイトではゴルフを定期的に行う事で、記憶力が向上したという研究をご紹介いたしました(高齢者にゴルフって効果的?!-日本人を対象とした報告から-)。
一方、「日本は世界の中でも活動量が少ない国!?」でもお伝えしたように、日本人の運動不足は深刻な問題と言えるでしょう。
では果たして、運動不足は認知症になる原因になりうるのでしょうか?
そこで今回は『運動不足』が認知症の発症に影響するのか、世界各国の研究結果をまとめた報告をご紹介いたします。
世界中で行われた19の研究の結果を統合
この報告は過去に発表された研究の結果をまとめる手法を用いて行われました。
初めに、インターネットを用いて過去に発表された研究を検索し、合計で9,741本がヒットしました。
そのうち、今回の報告に合致すると考えられる35本の研究の内容をチェックし、以下の基準を満たさない研究を除いていきました。
- 10年以上の観察期間を設けた前向き観察研究であること
- 認知症やアルツハイマー病の発生に着目した研究であること
- 運動不足による影響に着目した研究であること
19の研究結果をまとめたところ合計の対象者は404,840人となり、平均年齢は45.5歳でした。
なお「前向き観察研究」とは、研究計画を立てたあとに起きる出来事を調査する研究デザインのことを言います。
前向き観察研究は、「後ろ向き観察研究」と比較してバイアスの影響を受けにくく、研究結果の信頼性がより高いと言われています。
運動不足は認知症の発症に関係ない?!
約40万人のデータをまとめたところ、新たに認知症の発症が2,044件確認されました。
アルツハイマー病に着目した報告に絞ると1,602人が新たにアルツハイマー病を患いました。
この認知症やアルツハイマー病の発症に運動不足の有無が影響しているか確認したところ、運動不足な人としっかり運動していた人の間で明確な差はありませんでした。
また、運動不足を「認知症が発症した10年未満」と「認知症が発症した10年以上前」に分けて解析を行ったところ、10年以上前の運動不足は認知症の発症に影響しませんでした。
一方、10年以内の運動不足は認知症の発症リスクになることが明らかとなりました。
糖尿病や心臓病、脳卒中の発症には強く影響
最後に、糖尿病や心臓病、脳卒中の発症に着目して解析を行ったところ、運動不足な人はこれらの病気を患いやすいことが明らかとなりました。
この結果は「座りすぎは心臓病・がん・糖尿病のリスク!?ー34の研究からー」でご紹介した結果などと一致していました。
認知症の予防に運動は有効なのか??
約40万人のデータを統合した結果から、運動不足だとしても認知症の発症リスクが必ずしも上がるわけではないことが示されました。
一方、糖尿病や心臓病、脳卒中の発症予防に運動が効果的であることが改めて確認されました。
しかし、以前「心肺機能が衰えると認知症になりやすい?!」でもご紹介したように、認知症疾患診療ガイドライン2017では認知症の危険因子として糖尿病、脂質異常症、高血圧症、といった生活習慣関連因子を挙げています(参考文献・参考資料2)。
また、認知症の中には脳血管疾患などを患ったことで生じる「血管性認知症」もあります。
運動と認知症には直接的な関連がないかもしれませんが、運動を通して糖尿病や脳卒中を予防することで認知症になりにくい身体を維持することはできそうです。
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】BMJ. 2019 Apr 17;365:l1495.
【筆頭著者】Kivimäki M
【タイトル】Physical inactivity, cardiometabolic disease, and risk of dementia: an individual-participant meta-analysis.
【PMID: 30995986】