震災から学ぶ適切なソーシャルディスタンス

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”この記事を書いた人”

理学療法士(PT)/国立大学大学院

新しい生活様式における、地域のつながりの保ち方

新型コロナウイルス感染症について、非常に多くの情報が日々飛び交っています。

日本でも海外でも連日感染者が報告され、厚生労働省から感染対策として新しい生活様式が公表されました(参考文献・参考資料①)。

本記事では、3密回避などの感染対策を行いながら他者との交流を行うことのメリットについてまとめていきます。具体的には高齢者を対象とした研究や、他者との交流が制限される自然災害の情報から、身体やこころの機能をいかにして維持していくかに焦点を当てたいと思います。

特に、高齢者の方は感染してしまうと死亡のリスクが他の年代に比べて高いとされているため、どのように他者交流を行っていくかについて、是非、今回の内容を参考にしてみて下さい!

ソーシャルキャピタルとは?

新型コロナウイルス感染症そのものは人や動物に感染する病気です。一方、緊急事態宣言をはじめとする感染予防対策の影響は、経済的な混乱や他者との交流を制限する社会的なものです。

高齢者は若年者に比べて死亡のリスクが高いこともあり、より自粛の傾向が高まる可能性があります。自粛中に「フレイル」な状態にならないように、当サイトでも「フレイルな高齢者が気を付けるべき「新型コロナウイルス対策」とは」でいくつかの対策法をご紹介しております。

また、マスク、食品の買いだめや営業の自粛、産業の停滞など不安と混乱が広がった点について着目すると、新型コロナウイルス感染症の流行は災害として捉えている研究者もいます(参考文献・参考資料②)。

不安や混乱が広がっているコロナ禍で注目されているものの一つに、ソーシャルキャピタルというものがあります。

ソーシャルキャピタルとは、個々人の地域社会とのつながりなどを含んだ概念のことです。

例えば、近隣に住む人々との関係性(顔も知らない、いつも世間話をしているなど)や実際に近隣の方が困っているときに助けあえているかなどのことを指します。当サイトでは、ソーシャルキャピタルについて「活動量との関連から「ソーシャル・キャピタル」の概念を紐解く」で分かりやすくご紹介しておりますので、詳しくはそちらをご参照ください。

地域におけるつながりって大切?

では、ソーシャルキャピタル(地域のつながり)が豊かなことは、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは過去の例として、2016年に起こった熊本地震と地域のつながりに着目した研究を紹介させていただきます。

地域のつながりが豊かな地区は、頻繁な住民同士の助け合いなどを通して、住民の心理的なストレスが軽減すると言われております。実際、熊本地震においても、地域のつながりが豊かな地域の高齢女性は抑うつになりにくいことが報告されました(参考文献・参考資料③)。

続いて、新型コロナウイルス感染症の感染リスクを軽減しつつ、「地域のつながり」を保つにはどうすればよいのか、いくつかの方法をご紹介いたします。

ソーシャルディスタンスを守りながら地域とのつながりを保つことが重要

人や地域との関わりが減ってしまうと、人との関わりが減ってしまうことによる健康への影響とは?でもご紹介したように、要介護状態や死亡のリスクが上昇することが明らかになっています。

震災後の例に習うと、地域におけるつながりを維持向上させることが新型コロナウイルス感染症流行下の様々な健康被害に対する有効な対策の一つとして考えられます。

わが国では、地域における何らかのグループ活動に参加したことがある高齢者の割合は年々増加しており(参考文献・参考資料④)、それに伴い比較的豊かな地域のつながりを維持している地区が多いことが予想されます。

高齢者のグループ活動への参加状況
(図1:参考文献・参考資料④もとに執筆者作成)

しかしながら、感染予防対策であるソーシャルディスタンス(2m程度他者との間をあけること)(参考文献・参考資料⑤)や不要不急の外出制限などの影響もあり地域におけるつながりが薄くなる可能性が考えられます。

ソーシャルディスタンスを守りながら対面で他者との交流を行うには、

■ 3密回避
■ 手指衛生
■ マスク着用

などが必要になります。しかしながら、対面での交流だけでなく、電話や手紙、電子メールなどでの交流も抑うつのリスクを抑制できる可能性が考えられており(参考文献・参考資料⑥)、対面以外での他者との交流も有効と考えられます。

具体的な対面以外の交流方法として以下のものが挙げられます。

■ スマートフォン
■ タブレット
■ PC

 高齢者の世帯ではビデオ通話が可能なスマートフォン、タブレット、PCの普及率は十分とは言えませんが、固定電話の普及率は約9割と多くの家庭で普及しています(参考文献・参考資料⑦)。

高齢者の連絡手段ツール(図2:参考文献・参考資料⑦もとに執筆者作成)

そのため、手軽に行える固定電話を使用した通話が現実的に有効だと考えられます。しかしながら、固定電話を使用した通話のみでは健康にいい影響を与える可能性が少なく、手紙やビデオ通話、対面での交流などと使い分けながら週3回以上の交流を行うことをオススメします(参考文献・参考資料⑥)。

対面や非対面の手段を用い、地域における人や社会とのつながりを維持することで新型コロナウイルス感染症という難をともに乗り越えていきましょう。

【Point 1.】ソーシャルキャピタルとは、地域における人々のつながりのこと

【Point 2.】地域におけるつながりを豊かに保つことが、個人の健康にも重要

【Point 3.】対面だけでなく電話での交流も心理面に有効な可能性がある