透析を始めたあとの運動の効果とは?~心臓病との関係から~

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理学療法士(PT)

【Point 1.】運動不足は心臓病発症のリスクを高める

【Point 2.】心臓と腎臓の機能は密接に関係している

【Point 3.】透析を始めた後も体調に応じて適度な運動を心がけてみよう!

数年前から、糖尿病の影響で腎臓の機能低下が指摘されていたAさん

いよいよ腎臓が働かなくなってきたため、機能を補う目的で透析療法が先週より開始になりました。

運動を始めとした生活習慣の改善により、透析を始めた後も身体の健康状態を悪化させることなく生活することができるのでしょうか??

そもそも透析療法って何?

腎臓は尿を作って身体に溜まった不要な老廃物を排出する機能があり、人が生きていく上で非常に重要な臓器の1つです。

その腎臓の機能が病気などによって弱ってしまった際に、腎臓の機能の代わりを担う装置を用いた治療方法が透析療法といいます。

これにより、身体に溜まった老廃物を腎臓の機能をほとんど使わずに除去したり、体内の水分量をコントロールしたりします。

一方で透析療法が始まった場合、基本的には1~2日おきにクリニックなどに通い、数時間寝たまま透析を受ける必要があるため、時間とコストがものすごくかかる治療方法でもあります。

また、透析療法を受けて体内の水分量などが大きく変化すると身体が疲れやすく感じることがあり、長期的に運動不足などに繋がる可能性があります。

そこでこの記事では、透析開始後からの運動の効果、心臓病を予防していくために今からできる運動とその方法をお伝えいたします。

日本の腎臓病や透析療法導入の現状ってどうなってるの??

日本における腎臓病や心臓病などを有する「内部障害者」の増加は著しく、その中でも心臓機能障害に次いで腎臓機能障害者数が多い現状です。

下に示した図は、心臓病や腎臓病など内科的なご病気にかかっている日本人の割合を示しています。

心臓病が最も多くなっていますが、次いで腎臓病が多いことが分かります(参考文献・参考資料1)。

内部障害者数の内訳(平成18年度)
(参考文献・参考資料1)より編集部作成

また、透析療法を初めて行う患者数は増加傾向にあります。

下の図は、透析を始めた人の年間の人数の推移を示しています。このことからも、腎臓病にかかっている人の数が年々増加していることが分かります(参考文献・参考資料2)。

わが国の慢性透析療法の現況
2017年日本透析医学会統計調査報告書 図2 透析導入患者および死亡患者数の推移1983-2017より引用,編集部作成)

様々な点から腎臓病のお現状についてお伝えしましたが、上記から分かる通り、腎臓病は身近な病気の1つとなっています。

その代表的な治療法として透析療法があることがお分かりいただけたのではないかと思います。

一方、腎臓の機能が低下すると心臓の機能も低下するといわれています。

次はそちら点について簡単にご説明いたします。

心臓と腎臓の関係って?

高血圧や糖尿病、喫煙といった生活習慣病や貧血などの病態は、心臓病だけでなく腎臓病の原因でもあるとされています。

このように腎臓病と心臓病には共通した原因が多くあり、どちらか一方の臓器の機能が低下した際にもう一方の臓器にも影響を与えると言われています。

医療では「心腎連関」といった言葉が使われることもあり、心臓と腎臓には密接な関係があると考えられています(参考文献・参考資料3)。

また、透析を行っている方の死因は心不全が最も多いとも言われています(参考文献・参考資料2)。

心臓病においては、有酸素運動などを取り入れた運動が効果的であることが広く言われるようになってきました。

では、果たして腎臓病に対しても運動は良いものなのでしょうか?

腎臓病とリハビリの関係ってあるの?

近年、リハビリテーション領域では「腎臓リハビリテーション」という考え方が広まっており、2018 年には世界に先駆けて「腎臓リハビリテーションガイドライン」が作成されました(参考文献・参考資料4)。

このガイドラインでは腎臓リハビリテーションについて、「腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラム」と定義されています(原文ママ)。

実際には透析療法を始める前や透析療法中に、看護師や理学療法士といった様々な専門家の指導のもとでリハビリテーションが行われており、その方法の一つとして次にご紹介するような運動療法があります。

そもそも運動したらどんなメリットがあるの??

運動量を確保できてれば心血管疾患を25%も抑制?!ー高所得国での効果は絶大ー」や「運動量を増やすと心不全のリスクが下がる!!-6年間の調査から-」でもご紹介したように、健常者を対象に定期的な運動の継続が心臓病にかかるリスクを下げることが報告されています。

一方、これまで透析患者を対象とした運動効果(透析中の運動)の検証が様々な研究で行われており、透析を始めた後も運動を続けることによって心臓病を合併したことによる死亡リスクの低下や体力・筋力の改善、透析効率が改善することが報告されています。

透析効率とは透析がうまくできているかどうかを評価する手段の1つであり、尿素が透析で濾過される量で示されます。

透析を始めた後はどんな運動が良いの?

レジスタンストレーニング(重りや自分自身の体重を利用した筋トレ)と有酸素運動(ウォーキングやエアロバイク)が様々な臨床試験の結果から有効であると言われています(参考文献・参考資料5)。

運動の負荷の目安としては「少しきつい」〜「きつい」と自覚的に感じる負荷量を目安にレジスタンストレーニングでは下半身の筋力強化中心に10〜15回繰り返し行います(参考文献・参考資料⑥)。

有酸素運動としては15〜30分で行ってみましょう。

心臓病にならないために透析導入後から始める健康習慣

近年、透析を行なっている人の増加を背景に、生活の質を維持していくために日頃の運動量が重要と言われるようになってきました。

透析が始まった時から運動能力の低下は始まっており、そのまま放っておくと歩いて通っていたクリニックにも車椅子やストレッチャーで通う必要があるほどにまで機能が落ちてしまうとも言われています(参考文献・参考資料7)。

また、日頃から運動することを心がけておくことは身体のだるさや運動能力の維持だけでなく、死亡率の低下にもつながる可能性があることも言われています(参考文献・参考資料8)。

透析導入後こそ適度な運動を心がけて、合併症の予防や健康的な生活を目指してみましょう。

ただし、身体の重だるさや体重の急激な増加、食欲・活気の減退は病状が進行しているサインである可能性があります。

運動するにあたってまずは主治医の判断のもと、行うようにしましょう。