フレイルと生活習慣病の予防や対策は似て非なる
生活習慣病対策とフレイル対策はどちらも生活習慣を正すことで効果が得られることが知られていますが、その内容は似て非なるものです。
以前、当サイトでは、食事内容に焦点を当てて、両者の共通点と相違点についてまとめました。
実は生活習慣を正すだけでなく、生活習慣病に対する向き合い方も似て非なることが多いことをご存知でしたか?
今回は生活習慣病のなかでも最も有病者数の多い「高血圧」に着目して、管理の類似点と相違点について概説いたします。
①高血圧と生活習慣との関連
まず初めに、高血圧について簡単に確認しましょう。
日本における高血圧症患者の大多数を占める「本態性高血圧」において、血圧が高くなる要因として下の画像で示すようなものがありますが、基本的には生活習慣に起因しています。

現在では、食生活や運動といった生活習慣を正すことが高血圧を改善するための第一選択とされています(参考文献・参考資料②)。
特に運動に関しては、有酸素運動を主体とした運動を定期的に取り入れることが推奨されています(参考文献・参考資料②)。
特に疾患が無い場合、その効果が乏しい場合に初めてお薬を併用しますが、お薬による治療は副作用を伴うことがあります。
種類にもよりますが、めまいやふらつきなどの症状が見られることがあります。
では、同様にフレイルについても簡単に確認していきましょう。
②フレイルと生活習慣との関連
近年話題となっているフレイルは、歳をとるにつれて生じてくる衰えを総称した用語です。
現在、フレイルに関して様々な基準がありますが、中でも最もよく知られている基準は下の画像で示す5つの項目です(参考文献・参考資料③)。

5つの項目のうち3つ以上に当てはまると「フレイル」、1~2つ当てはまると「フレイルの一歩手前(プレフレイル)」となります。
フレイル(衰え)の対策には日々の運動が大切であり、バランスの良い食事も効果的であると考えられています(参考文献・参考資料③)。
つまり、先ほどお伝えした高血圧の対策と、基本的に気を付けることは一緒なのです。
しかし、例えば「運動」を取ってみても、フレイル対策の場合は有酸素運動よりも筋トレを優先させたほうが良いことが示されています。
つまり、高血圧対策とフレイル対策で気を付けるべきポイントは似ているようで若干異なる場合があるのです。
では、次に両者の違いについて、詳細に確認していきましょう。
③高血圧対策とフレイル対策の違い
下の表に、生活習慣に着目した高血圧対策とフレイル対策の要点をまとめてみました。
その違いは大きく以下の3点になります。
高血圧対策 | フレイル対策 | |
食事 | 塩分制限食 | 高たんぱく中心 |
運動 | 有酸素運動中心 | 筋トレ中心 |
体重 | 減量 | 維持もしくは増加 |
■ 食事
塩分制限は血圧を下げる有力な手段のひとつで、1日6g未満にすることが望ましいとされています。一方で、フレイル対策には高たんぱくな食生活がカギとなり、体重1kgあたり1.2~1.5g/日のたんぱく質を摂取することが勧められています。塩分制限のために薄味にすることで食事の楽しみが減り、結果的に食事量が減ってしまうとかえってフレイルを招く恐れがあるかもしれません。
■ 運動
血圧を下げることを目的とした場合、定期的な有酸素運動が勧められていますが、フレイル対策には筋トレを中心とした運動が推奨されています。特にフレイルな場合、激しい運動や息切れするほどの運動を行ってしまうと過度にエネルギーを消費してしまい、疲労を蓄積したり体重減少を来したりするかもしれません。この点は、同じ時間の中でどの運動を優先的に行うべきかを判断するのに役立つでしょう。
■ 体重
体重を減らすことも血圧を下げるのに効果的ですが、フレイルな高齢者の場合、体重が減ってしまうとフレイルをさらに助長させることや筋力低下をきたす可能性があります。したがって、フレイル対策の場合はむしろ、体重は維持するか増やしていくことが望ましいとされています。
ここまで、高血圧対策とフレイル対策のポイントの違いを比較してみました。
では、高血圧対策からフレイル対策へと心がけるべきポイントが移っていくタイミングはいつ頃なのでしょうか。
④高血圧対策とフレイル対策の切り替えのタイミング
結論から申し上げますと、高血圧対策からフレイル対策へと転換していく判断基準や具体的な目安はまだないと言えるでしょう。
本邦のガイドラインでは、フレイルの有無にかかわらず血圧管理をすることが勧められています(参考文献・参考資料③)。
特に、健康な高齢者の増加に伴い、高血圧管理・治療ガイドライン2025では、75歳以上の高齢者においても目標血圧は年齢・性別・合併症の有無に関係なく、診療所血圧で130/80 mmHg未満、家庭血圧で125/75 mmHg未満としております(参考文献・参考資料②)。
一方、フレイルな高齢者に厳密な血圧管理をしても、死亡率に大きな差はなく、場合によっては、効果があまり見られないという知見もあります。
このような結果が得られた理由は詳細にはまだわかりませんが、「フレイルかどうか」が対策の転換期を判断するポイントの1つとなるかもしれません。
例えば、先ほどご紹介した5つのフレイルの目安のうち、3つ以上当てはまりそうな方は、今すぐにでもフレイル対策を行うべきでしょう。
一方、「以前より歩く速さが遅くなってきた」とか「わけもなく疲れたような感じがする」といった身体の変化があった場合、フレイルの一歩手前である「プレフレイル」な状態である可能性があります。
プレフレイルは放置しておくとフレイルな状態になりやすいため、まさに「対策の転換期」なのかもしれません。
体重が減ってないか気を付けてみたり、高たんぱくな食生活を心がけてみたりと、普段の生活のなかで取り入れられそうなフレイル対策を実行してみてはいかがでしょうか。
もしどのように対処すればよいか迷った時はぜひ医師や専門家に相談し、共同意志決定の下で対策をしてみてください。
例えば、国家資格を有する専門家が所属する介護予防教室などに参加するのも、有効な解決策の1つになるでしょう。
【Point 1.】生活習慣病の中でも、高血圧は心臓病や脳卒中の危険性を高める。
【Point 2.】血圧の管理は、フレイルや病気の程度によって目安や管理の優先度が異なる場合がある。
【Point 3.】現状の健康状態を把握しつつ、生活習慣病とフレイルのどちらを優先して対策すべきか考えてみよう!
参考文献・参考資料