運動量を確保できてれば心血管疾患を25%も抑制?!ー高所得国での効果は絶大ー

運動知識
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理学療法士

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【Point 1.】食生活や運動習慣といった生活習慣の乱れは、心血管疾患の原因となりうる

【Point 2.】17ヶ国で調査を行った結果、運動量を多く確保できていると心血管疾患を予防できることが分かった

【Point 3.】日常生活を振り返ってみて、運動ができる時間を見つけてみよう

生活習慣の乱れは心血管疾患に影響します

心血管疾患とは、心臓病や大動脈瘤などの血管系の病気を総称した言葉です。

最近では脳血管疾患(脳卒中)と合わせて「脳心血管病」と言われることもあります。

この心血管疾患はタバコや食生活、運動などの日常的に行う習慣ががリスクになることが広く知られています。

このうち運動を習慣づけるには、日常的に運動量を確保することが大切です。

運動量は「運動量を増やすと心不全のリスクが下がる!!-6年間の調査から-」でもご紹介したように、METs × 時間で表されます。

つまり、どれだけの強度の運動をどれだけ続けたかが肝心です。

そこで今回は運動量に着目し、17ヶ国の運動量に関するデータをまとめた報告をご紹介しましょう。

質問紙から運動量を簡易的に算出!

この報告は Prospective Urban Rural Epidemiologic (PURE) Study と呼ばれる大規模な前向き研究から発表されました(参考文献・参考資料1)。

この研究では、カナダやスウェーデンをはじめとする17ヶ国から参加者がエントリーしています。

アジアでは中国、アラブ首長国連邦、イラン、インドなどが参加しています。

また地理的な多様性を反映するために、各国ごとに農村地区や都市部などをいくつか選定し、その地域に少なくとも4年以上在住予定の35歳から70歳までの方が対象となりました。

なお、もともと心血管疾患を経験した事のある方は除外しました。

運動量は、国際標準化身体活動質問票(IPAQ)と呼ばれる質問紙を使って評価しました。

この質問紙は『1週間の内、何日運動したか』や『1日当たりどのくらいの時間運動したか』を運動の強度ごとに確認できることが特徴です。

この質問紙から、普段の運動量を以下の3つに分類しました。

  • 低運動量群:600 METs・分/週 未満 or 中等度活動時間150 分 未満
  • 中等度運動量群:600~1500 METs・分/週 or 中等度活動時間 150~750 分
  • 高運動量群:1500 METs・分/週 以上 or 中等度活動時間 > 750 分

その上で、運動量が確保できていた場合の効果を調べました。

約13万人の調査結果

調査期間中に168916名の方が PURE Study に登録されました。

そのうち質問紙を使って運動量の評価ができ、心臓病を患っていなかった130,843名を今回の報告の対象としました。

そのうち、低運動量群は23,631名、中等度運動量群は49,348名、高運動量群は57.864名と、中等度運動量群以上の対象者が全体の81.9%を占めていました。

追跡期間の平均は6.9年で、そのうち合計で5,334名の死亡が確認されました。

運動量が多いと健康的!!

低運動量群と比較して、中等度運動量群では死亡のリスクが20%減少し、心臓病などの心血管疾患に関連した死亡は15%減少しました。

加えて、心血管疾患の発症は14%抑えられることが分かりました。

また、中等度運動量群と比較して高運動量群では死亡のリスクが19%減少し、心血管疾患に関連した死亡は15%、心血管疾患の発症は12%抑えることが分かりました。

さらに、低運動量群と高運動量群を比較すると、高運動量群の方が死亡リスクが35%、心血管関連の死亡リスクが27%、心血管疾患の発症が25%も抑えることが明らかとなりました。

国の所得別にみてみると・・・

今回の検証で日本は含まれていませんが、日本は高所得国に属します。

高所得国のみで検証した結果、運動量が確保できていると死亡のリスクが42%も下がることが分かりました。

同様に心血管疾患の死亡リスクは46%、心血管疾患の発症で47%リスクが下がることが示され、運動による利益や効果が大きいことが示されました。

運動による効果は絶大

今回ご紹介した報告から、運動によって心血管疾患の発症や早死にを予防することが明らかとなり、高所得国だとその効果はさらに大きいことが分かりました。

では高運動量群の基準となった『1500 METs・分 以上の運動』とは具体的にどのくらいなのでしょうか??

単純計算だと、約10 METs の運動であれば150分(2時間半)以上、約5 METs の運動であれば300分(5時間)で到達することができます。

身体活動のメッツ(METs)表(参考文献・参考資料2)を参照すると、約10 METs の運動はクロールで速く泳いだ場合や自転車で速く漕いだ場合など、日常生活に取り入れるにはなかなか負荷の高い運動になります。

一方、約5 METs の運動には、スーツケースなどの重さを運んで歩いた場合や荷物を持って階段を登った場合、早歩きをした場合など、日常的に行っている運動も含まれます。

つまり、通勤などの日常的なものに一手間加えるだけでも十分に達成できる数値となります。

まずは日常生活を振り返ってみて、運動が出来る時間を見つけてみましょう。

その上で1500METs・分の運動を目標にしてみてはいかがでしょうか?


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】Lancet. 2017 Dec 16;390(10113):2643-2654.

【筆頭著者】Lear SA

【タイトル】The effect of physical activity on mortality and cardiovascular disease in 130 000 people from 17 high-income, middle-income, and low-income countries: the PURE study.

【PMID: 28943267