アジアのサルコペニア基準の変更点を分かりやすく教えて!!

サルコペニア
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※ 本記事は論文発表を受けて2020年 6月14日に加筆、修正を行いました。

【Point 1.】2019年11月に行われた学術集会にて、アジアの新たなサルコペニア基準が発表された

【Point 2.】診断の対象や診断に用いられる項目、目安の値に変更があった

【Point 3.】新たな基準を自身の現場で活用してみよう!

2019年、アジアの新しいサルコペニア基準が発表されました!

2019年11月、新潟県の朱鷺メッセで開催された「第6回日本サルコペニア・フレイル学会大会」にて、Asia Working Group for Sarcopenia (AWGS) によるアジア人のサルコペニア基準の改訂版が発表されました。

2014年に初めてアジアのサルコペニア基準2014年(参考文献・参考資料1)が発表されてから5年ぶりの改訂となった本基準の改定ポイントを図を用いてご紹介いたします。

そもそもサルコペニアって何?

サルコペニアとは、ギリシャ語の sarx (筋肉) と Penia (喪失) を掛け合わせた用語であり、「知っておくと便利な言葉”サルコペニア”ー実はあなたも発症中?ー」でもご紹介したとおり、当初は「加齢に付随した筋肉量の減少」と考えられていました。

しかしながら、現代では筋肉量が減少する原因は必ずしも加齢だけではなく、日々の運動不足や栄養不足、活力の低下、様々な病気を患うことなども影響すると言われており、今回のアジアサルコペニア基準の改定では、年齢を問わず使用可能なスクリーニング指標を取り入れています。

では、このことを踏まえつつ今回の改定のポイントを図を用いながら確認してみましょう。

ポイントは定義と身体機能指標を広域に設定したこと

以下に、2014年に発表されたアジアサルコペニア基準と今回改定されたアジアサルコペニア基準を比較した画像をお示しします。

AWGS2019

主な変更点は以下に大別されるでしょう。

  • サルコペニア診断がより広域で行えるようになった
  • 握力と歩行速度の目安がそれぞれ変更となった
  • 身体機能の項目に「5回立ち座りテスト」と「Short Physical Performance Battery (SPPB)」が追加となった

では、1つずつ確認をしていきましょう。

サルコペニアの診断をした方が良い症例は?

2014年では「65歳以上であること」がサルコペニア診断の基準として示されていましたが、2019年の改訂版では新たに「症例発見」のツールとして以下の指標を設けました。

  • 下腿周囲長:男性 < 34 cm,女性 < 33 cm
  • SARC-F:≧ 4 点
  • SARC-CalF:≧ 11 点

SARC-Fは、5つの質問からなる自記式質問指標であり、日本人を対象とした報告でもサルコペニアのスクリーニング指標として有用であるとされています(参考文献・参考資料2)。

SARC-CalFは下腿周囲長とSARC-Fを掛け合わせた指標であり、SARC-Fと比較して感度の高い指標であると言われています(参考文献・参考資料3)。

これらの項目を設けたことで、大型な機器を導入することの難しいかかりつけ医や地域現場でも、簡便にサルコペニアのスクリーニングが行えるようになったと言えるでしょう。

握力と歩行速度のカットオフが変更!

今回の変更に際して、過去に報告された論文を再調査して目安の値を改めて検討いたしました。

その結果、男性の握力が26 kg から 28 kg へ、歩行速度が 0.8 m/s から 1.0 m/s へと変更になりました。

この変更により、2014年までのサルコペニア診断基準と比較して、より多くの方がサルコペニアに該当するのではないかと予想されています。

身体機能は複数の指標で鑑別を

今回、かかりつけ医や地域現場でもサルコペニアの診断が行えるように身体機能の指標に5回立ち座り時間が加えられました。

合わせて、バランス機能、歩行速度、5回立ち座り時間の3指標からなるSPPBも追加されました。

これにより各現場の対象者や地域の特性に合わせて評価尺度を柔軟に用いることができるようになったと言えるでしょう。

その他の指標は??

今回、骨格筋量の評価に用いられる Dual-energy X-ray absorptiometry (DEXA) や Bioelectrical impedance analysis (BIA) の基準に変更はありませんでした。

また、サルコペニアの重い状態(重症サルコペニア)の定義は従来通り「骨格筋量に加えて筋力、身体機能の双方が低下した状態」となりました。

なお、2014年版で提唱されていた “Pre-sarcopenia” の概念は使用されませんでした。

その一方で、かかりつけ医や地域現場ですぐにサルコペニアに対して治療・介入が行えるように “Possible sarcopenia” が新たに提唱されました。

Possible Sarcopenia は下腿周径、SARC-F、SARC-CalFを用いて対象者を抽出した上で、筋力、身体機能のいずれかが低下した状態となります。

つまり、骨格筋量の測定を行って確定診断をしなくても、 “サルコペニアの可能性がある” 段階で、治療を初めても良いという事になります。

今回の改定のまとめ

ここまで、2014年版と2019年版のサルコペニア基準の変更点に関してお伝えいたしました。

基本的な診断の流れは変わっておらず、基本的には「筋力」「身体機能」「骨格筋量」を評価することで診断が可能となっております。

日本では2017年に、サルコペニア診療ガイドラインが発行されています(参考文献・参考資料4)。

また、日本では2018年4月よりサルコペニアが傷病名として登録されております。

さらにヨーロッパでは、「サルコペニアの新たな定義と指標!ーヨーロッパからの最新の報告ー」でもお伝えしたとおり、昨年度サルコペニアの診断基準を改定しております。

これらのことから、サルコペニアは日本だけでなく、世界的にも大きな問題になっていると言っても過言ではありません。

今回発表された新たな診断基準を元に、サルコペニアの早期発見、早期改善を目指していきたいところですね。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】J Am Med Dir Assoc. 2020 Mar;21(3):300-307.e2

【筆頭著者】Liang-Kung Chen

【タイトル】Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment

【PMID: 32033882