【Point 1.】長く続く腰の痛みは仕事や人間関係といった社会的な要因が影響するかもしれない
【Point 2.】腰痛には仕事の負荷量やサポートが受けられるかどうかが関連していることが示された
【Point 3.】個人での対処だけでなく、上司や会社側が職場環境を整えることも重要かもしれない
あなたは、腰痛持ちですか?
腰痛持ちであるという方は多いと思います。
もしくは、皆さんの周りに「腰が痛い」と嘆いている方々は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
腰痛というのは原因が特定できるものと原因が特定できないものに大別されます。
原因が特定できる腰痛の原因としては背骨の病気(脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなど)が挙げられます。
原因が特定できない腰痛は身体に負担のかかりやすい作業や冷凍室などの寒い環境での作業、睡眠不足、職場の対人ストレスなど様々な要因が関連していると言われています(参考文献・参考資料1)。
今回は上記のような腰痛が長期化した慢性腰痛と社会的要因について検討した研究をご紹介します。
この研究での慢性腰痛とは「3ヶ月以上続く腰椎部の疼痛」と定義されています。
一方、社会的要因は以下にあげるような要因を用いて定義されています。
- 仕事の負荷量や仕事を自分でコントロールできるかどうか
- 給同僚や上司からのサポートが受けられるかどうか
- 仕事に関する技術の有無
- 公平性
- 職業価値観
仕事の負荷量など、慢性腰痛と関連がありそうと皆さんもなんとなく感じたことがあるかと思います。
もしかしたら、実際にそのような経験をされた読者の方もいるかもしれません。
そのように、今までなんとなく言われていた慢性腰痛と社会的要因の関係について検討しています。
複数の研究をまとめて検証
この研究では、1987年から2018年までの約30年間に出た論文の中で、仕事をしている18歳以上の社会人を対象としている論文を調査しています。
調査の際に、社会的要因と慢性腰痛との関連について検討していることを条件に論文を検索し、見つかった論文の結果をまとめています。
まず、「社会人」や「慢性腰痛」、「社会心理的要因」などといった今回の研究内容に関連しそうな単語を用いて1987年から2018年までの論文を検索し、13,232本の研究が見つかりました。
そこから今回の研究内容にそぐわない論文を除いていき、研究としての質も検討した結果、最終的に18本の研究を使用して検証しています。
その際には異なる研究間での効果を検討するために必要な差を統計学的に算出し、比較・検証しています。
対象となった18本の研究は全て慢性腰痛の有無を聴取するとともに、質問用紙を用いて社会的要因を聴取しています。
これらの研究は前述の社会的要因の中で少なくとも一つの項目と腰痛との関連を検討した研究です。
仕事の負荷量については身体的・精神的ストレスの両方が含まれています。
慢性腰痛に関連するのは仕事の負荷量
慢性腰痛と社会的要因の関係について以下のことが明らかになりました。
研究対象のとなったのは32-52歳の仕事をしている方々で平均年齢は39歳でした。
その内、男性48%、女性52%でした。
- 仕事の負荷量が大きいほど慢性腰痛の人が多い
- 仕事をコントロールできない人や決定権がない人ほど慢性腰痛の人が多い
- 同僚や上司からのサポートが受けられないほど慢性腰痛の人が多い
やはり、仕事に関して負荷量が大きいほど慢性腰痛の人が多いようです。
ここで注目して頂きたいのが、仕事量の関係以外の結果です。
決定権がない人や同僚や上司からのサポートが受けられないなどの要因によっても慢性腰痛は多くなるようです。
こちらに関しては精神的ストレスによって慢性腰痛が発生しているのかもしれません。
慢性腰痛に関連しない要因
他にも以下のようなことも明らかになっています。
- 仕事に関する技術の程度は慢性腰痛と関連しない
- 給料などの報酬も慢性腰痛と関連しない
仕事に関する技術の有無や給料などの報酬は慢性腰痛と関連しないようです。
どちらも身体的・精神的ストレスに直結しないからでしょうか。
仕事をする上で慢性腰痛を防ぐためには
今回の研究の結果から、慢性腰痛と社会的要因の関連が明らかになりました。
「慢性腰痛に関連する要因」で述べた、仕事の負荷量や同僚や上司からのサポートが受けられないなどの要因については皆さんが「なんとなく」慢性腰痛と関連があるとだろうと思っていた要因だったかと思います。
その「なんとなく」を研究として「明確に」慢性腰痛と関連があると結論付けたという点で、この研究は意義のある研究であると思います。
慢性腰痛には仕事の負荷量や同僚や上司のサポートなど個人では対処が難しい要因も関連しています。
しかし、個人でも対応できることもあります。
例えば、「報・連・相」です。
上司や同僚への報告・連絡・相談がうまくできていれば仕事量を調整してもらえるかもしれませんし、同僚や上司からのサポートが受けやすくなるかもしれません。
「報・連・相」については精神・心理的要因に対する対策でしたが他にも身体的要因に関しては腰痛を防ぐクッションなどを使用してみるのもいいかもしれません。
前述のように、まずは個人で努力することは必要ですが、限界があります。
そのため、部下に任せられる高負荷の仕事と低負荷の仕事の量を上司が正確に見極めて仕事量をコントロールすることや進捗状況など現状確認を積極的に行うこと、問題を抱えていないかヒアリングを定期的に行うなど上司や会社側からのアプローチが慢性腰痛を防ぐ上では重要になるかもしれません。
この記事がご自身の慢性腰痛を防ぐための一助になるのはもちろんのことではありますが、同時に部下もしくは従業員の健康面を考慮するきっかけになればと思います。
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】BMC Musculoskelet Disord. 2019 Oct 25;20(1):480.
【筆頭著者】Buruck G
【タイトル】Psychosocial areas of worklife and chronic low back pain: a systematic review and meta-analysis
【PMID: 31653249】