筋肉の霜降りは治りにくい?!

基礎知識
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理学療法士

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【Point 1.】筋肉の衰えは筋線維の萎縮や減少、脂肪の沈着(霜降り状態)などの原因がある

【Point 2.】定期的な筋トレによって筋肉の質は良くなるものの、筋肉内に沈着した脂肪の量は変わらなかった

【Point 3.】霜降り状態の筋肉になりにくい食生活を心がけ、筋トレを通して筋肉の質を取り戻していこう!

筋肉の衰えと「霜降り状態」

「最近足がやせ細ってきたりお尻周りがたるんできたが、筋トレしたらどう改善されるだろう?」

このような身体の変化は、年を取るにつれて筋肉の衰えとともにやってきます。

筋肉の衰えにはいくつかの原因があります。例えば、

■ 筋肉の線維が細くなってしまう(萎縮)
■ 筋肉の線維の量が減ってしまう(減少)
■ 筋肉の中にムダな脂肪が溜まってしまう(脂肪沈着)

といった原因が考えられます。

特に、脂肪沈着は「霜降り肉」に例えられることが多く、後述するように筋肉や身体にとって好ましくない影響をもたらすと言われています。

しかしながら、筋線維が減ったり霜降り状態になったりしているかどうかは、普段の生活では全くわかりません。

目に見えて身体の変化が起きた時には、もしかしたら手遅れの可能性もあります。

では、運動や筋トレによって、これらの原因は解消されるのでしょうか?

そこで今回は高齢でフレイルな高齢者を対象に、筋トレを行うことで筋肉の状態がどのように変化するのかを調べた報告をもとに、筋肉の衰えに対する対策案をご紹介いたします。

研究の前後で筋肉の状態を画像と検体の両方で解析

この研究は67~98歳のフレイルな高齢者34名(男性18名、女性16名)を対象に行われました。

対象者は研究を始める前に、ランダムに筋トレを行う群と運動を行わない群の2つに割り振られました。

筋トレを行う群は、週2回のトレーニングを10週間行ってもらいました。トレーニングの内容は足の力を鍛える「レッグプレス」や「ニー・エクステンション(膝を伸ばすトレーニング)」を取り入れました。

トレーニングの負荷は専門家により設定し、最初は最大反復回数が12回となるような重さ(ギリギリ12回できる重さ)で2~3セット行うことからスタートしました。

その後、重さを徐々に上げていき、最終的には最大反復回数が6回になるような重さ(ギリギリ6回できる重さ)で3~4セット行いました。

筋トレによる効果は、次の指標を用いて検討しました。

■ CT画像を使った骨格筋の大きさと密度
■ 筋生検によって採取された実際の筋肉の状態
■ 膝を伸ばす筋力

CT画像は筋肉や脂肪、骨などの「密度」をもとに画像の白黒の濃さが決まります。

密度が高い(① 筋線維が太い、② 筋線維が多い、③ 筋肉内の脂肪の量が少ない)ほど、画像では白っぽくなるのです。

この原理を応用して、筋肉の密度を推定しました。

筋生検は、実際に対象者の筋肉の一部を検体として採取し、顕微鏡などを用いてその状態を確認する検査です。

この指標を取り入れることで、筋肉の大きさや密度、筋力が改善したときに、筋肉ではどのようなことが起こっているのかを組織化学的に確認することができます。

今回は、膝を伸ばすときに使われる太ももの筋肉(大腿四頭筋)の様子を調べました。

では実際に、得られた結果を見てみましょう。

筋力、筋肉の大きさ、筋肉の密度はいずれも改善!

10週間の介入の結果、筋トレ群では、筋力が約7%改善しました。

太ももの筋肉(大腿四頭筋)は、トレーニング前と比較して全体的に約7%ほど肥大しました。

合わせて、筋肉全体の密度も約4%ほど改善を認めました。

これらの結果から、筋トレを定期的に適切な負荷で行うことで、フレイルな高齢者でも一定の効果が期待できると言えるでしょう。

筋トレ効果は筋肥大によるもの?!

続いて、筋生検で得られた結果を見てみましょう。

筋生検を行って筋トレ前後の筋肉の様子を比較したところ、筋線維は1本あたりの太さが太くなっていることが示されました。

一方で、筋肉内に含まれる脂肪細胞の量や大きさは変わらないことが示されました。

したがって、筋トレによる筋肉への効果は、筋肉の中に含まれる脂肪が減るのではなく、筋線維が太く、大きくなっていることによる可能性が明らかとなりました。

霜降り状態を抑える=筋肉の衰えを抑える

フレイルな高齢者に対する筋トレの効果は、筋肉の線維を太くすることで筋肉の密度が改善し、筋力の改善へと繋がりました。

しかし、筋肉の中に含まれる脂肪量の低下にはつながりませんでした。

この結果から考えると、筋肉の大きさや密度、筋力といった筋肉の「質」を上げていくには、脂肪を減らすことを目指すのではなく、筋肉を太く、丈夫にすることを心がけるのが効果的である可能性があります。

一方で、内臓脂肪などの脂肪組織は有酸素運動を行うことで燃焼しやすいとも言われています。

今回は筋トレを中心とした運動メニューなので、有酸素運動を取り入れることが、筋肉に含まれる脂肪を減らす手段の1つになるのかもしれません。

現在、この「霜降り状態」の筋肉は、加齢による影響が強いのではないかと考えられています。

筋肉量の減少は男性より女性に顕著?!-アメリカの大規模研究から-」では、加齢による筋肉の衰えが特に女性において見られる可能性があることをお伝えいたしました。

また、今回着目した「霜降り状態」は、食生活がアンバランスだとなりやすいとも言われており(参考文献・参考資料①)、糖尿病の原因でもあるインスリン抵抗性などと密接に関連していると考えられています(参考文献・参考資料②)

糖尿病も食生活の乱れが原因であることが多いので、バランスのとれた食生活が筋肉の質を “保つ” 秘訣の1つとも言えるでしょう。

栄養失調とフレイルから高齢者を守る!その秘訣はたんぱく質にあり!」では実際に栄養バランスのとれたメニューをご紹介しておりますので、ぜひご参考にしてみてください。

これらから、

■筋肉の質を取り戻すには筋トレを通して「筋線維」を太く、丈夫にする

■普段から「霜降り状態」の筋肉になりにくい、バランスの良い食生活を心がける

の2点が重要です。

特に、今回の研究では足の筋トレを中心に専門家の管理の下で行われています。

見た目の変化に気づく前から適切なトレーニングを行える環境に足を運ぶのも、対策の1つかもしれません。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2020 Jun;11(3):663-677

【筆頭著者】Sigve N Aas

【タイトル】Musculoskeletal adaptations to strength training in frail elderly: a matter of quantity or quality?

【PMID: 32091670


参考文献・参考資料

1:Ahmed S, et al. The Effects of Diet on the Proportion of Intramuscular Fat in Human Muscle: A Systematic Review and Meta-analysis. Front Nutr. 2018;5:7. Published 2018 Feb 20.

2:Kitessa SM, et al. Lipid-Induced Insulin Resistance in Skeletal Muscle: The Chase for the Culprit Goes from Total Intramuscular Fat to Lipid Intermediates, and Finally to Species of Lipid Intermediates. Nutrients. 2016;8(8):466. Published 2016 Jul 29.