【Point 1.】筋トレは筋肉だけでなく、身体の他の部分にも影響を与えていると考えられている
【Point 2.】筋トレは負荷量を変えても骨密度の変化量には影響を与えないことが分かった
【Point 3.】骨密度の変化量には影響しないという結果だが運動すること自体は多くのメリットがある
骨密度の低下は骨折のリスクに
当サイトをご覧の皆さんは健康に関心が高い方が多いかと思います。
中には運動や筋トレについてご自身で調べて多くの知識をお持ちの方もいるかもしれません。
しかし、筋トレが骨密度に影響を与えているかもしれないことはご存知でしょうか。
骨密度が低下すると骨折しやすくなります。
実際に私が病院で理学療法士として働いていると、骨折して入院する患者さんのリハビリを担当することが多くあります。
中でも、太ももの付け根の部分の骨(大腿骨頚部)や腰の骨(腰椎)を骨折して入院される方が多くいらっしゃいます。
どちらも転倒した際に骨折しやすい部分で、特に大腿骨頚部の骨折は一般的に手術が必要となります。
転倒しないことも重要ですが、転倒しても簡単に骨折しないように骨密度を高めておく必要があるかと思います。
筋トレをすると筋肉がつきますが、それと同時に骨密度が高まるとしたら一石二鳥ですよね。
また、その筋トレが低負荷で骨密度が高まるなら運動が苦手な人でも安心ですよね。
そこで、今回は筋トレの負荷量が大腿骨頚部と腰椎の骨密度の変化量に及ぼす影響について検討した研究をご紹介いたします。
それでは、みていきましょう!
複数の研究をまとめて検証
この研究では、インターネット上の論文検索サイトで見つかった負荷量の違いによる筋力トレの効果を、大腿骨頚部と腰椎の骨密度に着目して検討している論文を対象に調査しています。
まず、『高齢者や45歳以上の中年の男女』、『高負荷の筋トレと低負荷の筋トレの効果を比較している』、『大腿骨頚部と腰椎の骨密度を調査している』という条件で論文を検索し、該当する論文は2657本見つかりました。
そこから、似たような論文や今回の研究の趣旨に合わない論文を除外して、最終的に6本まで絞り込んで検証しています。
その際には異なる研究間での効果を検討するために必要な差を統計学的に算出し、比較・検証しています。
各研究の結果を比較した場合の調査結果と、負荷量の異なる筋トレ実施後の骨密度の変化に影響を与える可能性のある要因(被験者の性別や年齢、筋トレ前の骨密度、筋トレ期間)についての調査結果という2つの結果があります。
各研究の結果をまとめると・・・
各研究の結果を比較した場合、高負荷の筋トレと低負荷の筋トレによって、大腿骨頚部と腰椎の骨密度の変化量は変わらないという結果でした。
つまり、高負荷・低負荷の筋トレは両方ともに同じくらい骨密度を変化させる、もしくは骨密度を変化させないので負荷量の違いによる大腿骨頚部や腰椎の骨密度の変化量への影響はほとんどないということです。
この結果から、筆者らは低負荷の筋トレに対する高負荷の筋トレの優位性は確認できなかったと述べております。
したがって、筋トレによって骨密度を変化させるには、負荷量に加えて何か別の要因があるのかもしれません。
次に、高負荷の筋トレを行う場合、低負荷の筋トレよりも骨密度の変化に影響を及ぼす可能性がある要因はあるのかどうかをみていきましょう。
骨密度変化に影響を与える可能性のある要因(高負荷の筋トレの場合)
解析の結果、腰椎の骨密度に変化を与える可能性がある要因は検出されませんでした。
一方、大腿骨頚部に関しては以下の2つが骨密度を変化させる可能性のある要因として検出されました。
■ 筋トレ開始前の骨密度が十分な場合
■ 筋トレ期間が6ヶ月未満の場合
つまり、筋トレ開始前の骨密度が保たれており、筋トレを行う期間が短い場合は、低負荷の筋トレと比較して高負荷の筋トレの方が骨密度をより大きく変化させる可能性があるという結果です。
ただし、この結果を正しいものと判断するには少し注意が必要です。
なぜなら、ここまで述べてきた論文の結果について、あくまでも推察ではありますが、今回の研究に使用された6本の論文の被験者の特性が関連しているかもしれないと考えるからです。
この研究に採用された論文について、6本のうち3本は閉経後の高齢女性を対象としており、残りの3本のうち1本も女性の割合が高いことから、全体的に偏った結果になっている可能性があります。
閉経後の女性は骨密度が急激に低下しやすい(参考文献・参考資料①)と言われていることからも、筋トレだけの介入では改善しきれなかったのかもしれません。
このことから、本研究の結果を解釈する際には、性別や年齢、加齢に伴う身体的特徴の変化を考慮した上で慎重に判断をする必要があるということが言えます。
運動にはたくさんの他のメリットがある
今回の研究から筋トレの負荷量は大腿骨頚部や腰椎の骨密度の変化量に影響を与えないことが分かりました。
「高負荷・低負荷ともに同じくらい骨密度が変化した」のか、「どちらも変化しなかった」のかについてはわかりませんが、この研究に使用された研究の結果を見ると、「どちらも変化しなかった」の可能性が高いかもしれません。
また、筋トレ前の骨密度が十分である場合と筋トレを行う期間が短い場合は、高負荷の筋トレの方が骨密度をより変化させる可能性があることも分かりました。
上記のように、ある条件内では高負荷の方が骨密度を変化させる可能性があることが分かりましたが、急激に高負荷の筋トレを始めることはお勧めしません。
今まで筋トレをしていない人がいきなり高負荷の筋トレを始めると筋肉に大きな負荷がかかり、ひどい筋肉痛だけでなく、筋肉や腱が断裂してしまう可能性もあります。
そのため、これから筋トレを始める人は身体を慣らすために、低負荷の運動から始め、徐々に負荷量を上げていきましょう。
今回の記事では筋トレの負荷量の違いによる骨密度への影響をご紹介しましたが、筋トレに関しては筋トレのタイミングによる効果の違いや筋肉の使い方による効果の違いなど効果的な筋トレの方法についての記事もありますので、興味がある方はそちらの記事も参考にしていただければと思います。
適度な運動には心肺機能の向上や脳卒中や心臓病のリスク減少などといったメリットがたくさんあるので、少しずつでもいいので運動習慣を身に付けていただければと思います。
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】Exp Gerontol. 2020 May 23;138:110973.
【筆頭著者】Daniel Souza
【タイトル】High and Low-Load Resistance Training Produce Similar Effects on Bone Mineral Density of Middle-Aged and Older People: A Systematic Review With Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials
【PMID: 32454079】