運動は血管の機能を若返らせることができるのか?

基礎知識
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理学療法士

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【Point 1.】血管の最も内側にある「内皮細胞」の機能の低下は動脈硬化のはじまりと言われている

【Point 2.】運動によって、血管の内皮機能が改善する傾向にあることがわかった!

【Point 3.】運動を通して血管を若返らせ、動脈硬化や高血圧を予防しよう!!

血管内皮機能の低下は動脈硬化のはじまり

高血圧は動脈硬化が原因で進行していきますが、そのはじまりは「血管内皮機能」の低下であると言われています。

血管内皮機能とは、その名の通り血管の一番内側にある「内皮細胞」の機能のことを指します。

血中に含まれる一酸化炭素(NO)による刺激を受けて拡張したり、別の物質の刺激を受けて引き締まったりすることができます。血管の内側から動脈硬化がはじまると、この機能が失われていくため血圧が高まっていくのです。

この血管内皮機能は、初期の段階であれば運動や生活習慣で治ると言われています(可逆的)。つまり、動脈硬化の初期段階であれば、運動によって改善が可能なのです!

そこで今回は、この「血管内皮機能」に着目して、運動の効果を検証した報告をご紹介いたします。

過去に報告された運動の効果を検証したランダム試験を集約

この研究は、過去に報告された論文を統合する手法を用いて行われました(システマティックレビュー)。

まずはじめに、「血管内皮」に関する用語や「高血圧」、「運動」に関する用語を組み合わせ、過去の論文を検索するための式を作成しました。

作成した検索式を用いて過去の論文をピックアップしたところ、全部で440本の報告が見つかりました。

その上で、本研究の目的に当てはまらない論文を除外していく作業を行いました。

その際、血管内皮は血流依存性血管拡張反応検査(FMD: flow-mediated dilatation)で測定したものに限定しました。FMDは腕の血流を5分ほど止めたあと、再度血流を流した時にどれだけ血管が広がるかを調べる検査です 基本的には、血流を止める前と比較して、血管の広がりが5%を下回ると、血管内皮障害が疑われます。

運動に関しては、ランダムに運動する人としない人を割りつけた報告のみ採用し、運動の内容については問いませんでした。

その結果、最終的に5本の論文を採用しました。

運動によって血管の機能は改善する傾向に

5本の論文、全352例(平均年齢59歳)の結果をまとめたところ、運動を行っていないグループと比較して運動を行ったグループで血管内皮機能(FMD)が有意に改善していることが明らかとなりました。

しかしながら、採用された5本の研究間の異質性が高く(I2 = 70%)、研究間で結果のばらつきが大きい状態と言えます。研究間で結果が大きく異なると、結果が一貫していない可能性があり、本当に運動によって効果があるのかどうか定かではなくなる場合があります。

したがって、この結果の過大解釈には注意が必要でしょう。

実際に有意差を認めた報告は5報中1報のみ

今回採用された5報の論文のそれぞれに着目してみましょう。

5報の報告のうち、いずれの報告でも血管内皮機能(FMD)をメインの結果として検証を行いました。そのうち実際に運動を行ったグループで有意にFMDが改善した報告は1報のみでした。

今回の解析に用いられた5本の論文で全体的な偏りがあるかどうか確認しましたが、目立った偏りはありませんでした(Funnel Plots)。一方、以下に示す通り、各々の報告で運動の強度や頻度には違いがありました。つまり、研究によって行ったトレーニングが異なるため、それぞれの結果を単純に比較することは難しく,結果を正確に解釈することが難しいと言えます。

■ 持続的な有酸素運動を週4回
■ 高強度インターバルトレーニング(HIIT)を週3回
■ 45分間のスイミングを週3~4回
■ 血中乳酸濃度が一定の基準を超えたレベルの強度で30分の運動を週3回

筆者らはこれらの結果をふまえて、運動によって血管の状態が改善することが明らかになったものの、その効果をハッキリさせるには更に研究が必要だと述べております。

とはいえ運動で血圧は下がるもの

今回ご紹介した報告は、運動によって血管の機能が改善するかどうかを確認しました。結果として、運動は血管内皮機能の改善効果がある傾向が見られましたが、得られた結果を飛躍しすぎるには注意が必要であると言えるでしょう。

とはいうものの、有酸素運動を継続することで、血圧を下げることができるのは大方意見が一致しています(参考文献・参考資料①)

では、今回の結果をふまえて、どのようなことができるでしょうか。

今回用いられた報告では、サイクリング、ウォーキング、ランニング、スイミングなど、有酸素運動を中心とした運動メニューが用いられました。これらの運動は血圧を下げる効果として、広く知られています。

そのような中、今回採用された論文の中には有酸素運動とは少し違う、「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」を取り入れた報告もありました。

HIITは、有酸素運動よりも高強度で、かつ体力を向上させる方法として注目されています。実際には屋内で実施することも可能であり、短い時間で強い負荷をかけることで効果があるとされています。
With コロナの時代に突入し、トレーニングジムや多くの人が集まる場所に行きたくないという方は、自宅内でも実施できるHIITを行ってみても良いかもしれません。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】J Am Soc Hypertens. 2018 Dec;12(12):e65-e75. 

【筆頭著者】Pedralli ML

【タイトル】Effects of exercise training on endothelial function in individuals with hypertension: a systematic review with meta-analysis.

【PMID:30482668


参考文献・参考資料

1:Bersaoui M, et al. The effect of exercise training on blood pressure in African and Asian populations: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Eur J Prev Cardiol. 2020;27(5):457-472.