【Point 1.】寝っぱなしの状態が続くと、わずか数日間でも血管や脳などの部位に変化が生じ、機能が低下すると言われている
【Point 2.】若年男性を対象とした検証から、数日間寝っぱなしでいると筋肉が細くなり、質が低下することが分かった
【Point 3.】1日に1度でも良いので、散歩やランニングなど、身体を大きく動かす習慣を取り入れてみよう
寝っぱなしの状態が続くと、どのような変化が生じるのでしょうか?
たとえたった数日間だったとしても、寝っぱなしの生活が続くと、身体には血液の循環や脳の萎縮など、様々な変化が生じると言われています。
たとえば風邪をひいて寝込んでしまったとき、数日たつと身体が重くなった感じを経験したことはありませんか??
このような場合は、体調がすぐれないだけではなく、寝込んだことで、筋肉が衰えてしまったからかも知れません。
今回ご紹介する研究では、若い男性を対象に、短期間寝っぱなしの状態が筋肉にどんな影響があるのかを検証しています。
3日間寝っぱなしの状態を再現し、筋肉の質を観察
今回ご紹介する研究は、フランス国立宇宙センター(CNES)(参考文献・参考資料1)からの支援を受けて行われました。
対象は、喫煙経験のない成人の男性12名(平均年齢32歳)で、薬を飲んでおらず、今までに目立った病気にかかったとの無い健康な人たちでした。
対象者には、特殊なベッドのようなものに3日間寝続けてもらいました(参考文献・参考資料2)。
イメージとしては、ぬるま湯を浸したお風呂の上から特殊な布を掛け、その布の上に寝ているような状態です。
これによって、身体を常に無重力の環境に近づけることができます。
この特殊なベッドのようなものに寝る前と寝っぱなし3日目に、右足の太ももの外側(右外側広筋)から筋肉を採取し、顕微鏡などを用いて筋肉の状態を観察しました。
わずか3日間寝っぱなしの状態でも、筋肉が細くなる!!
筋肉は、細長い線維状の細胞(ここでは「筋線維」と呼びます)が束になっています。
一般的に、この筋線維の1本1本が太いと、より強い力を出すことができます。
今回の検証の結果、わずか3日間の寝たきりによって、筋線維の太さ(筋線維の断面積)が平均10.6%小さくなることが明らかとなりました。
筋肉の中にできる脂肪は増える??
加齢や病気によって筋肉が使われなくなると、筋肉の細胞が脂肪に変化すると言われています(脂肪変性)。
いわゆる「霜降り肉」に近い状態であり、筋肉の質が低下した状態と考えられています。
今回の検証の結果、3日間寝っぱなしの状態が続くと、筋肉の中に脂肪ができやすくなる傾向が見られました。
しかし、研究の対象となる人が少なかったこともあり、実験前後の変化を統計学的に比較したわけではありませんので、解釈には注意しましょう。
筋肉が脂肪に変わる過程で生じる誘発物質が増加!
筋肉の中にできる脂肪の量を解析することはできませんでしたが、今回の研究では筋肉から脂肪に変わる際に生じる物質を解析することに成功しました。
その結果、3日間の寝っぱなしによって、「PDGFRα」と呼ばれる物質が増加することが明らかとなりました。
PDGFRαは、筋肉が脂肪に変わる際にはたらく物質の指標(マーカー)として知られています。
つまり、短期間でも寝たままだと、筋肉から脂肪に変わる過程が引き起こされることが今回の結果から示されました。
筋肉の質を維持するために
今回の結果から、たとえ若い男性でも、短い期間寝っぱなしだと筋肉が細くなり、筋肉の質が低下する可能性が示されました。
このような横になる期間が長くなると、筋肉の老化は急速に進行していくと考えられます。
また、今回の結果ほどではありませんが、連休中に長い時間横になっていることや、風邪で寝込んでしまった際にも同様の現象が生じる可能性があります。
1日に1度でも良いので、身体を大きく動かす習慣をつけていきましょう。
例えば、朝起きたら散歩やランニングに行くなど、外に出る機会を増やしてみても良いかもしれませんね。
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018 Apr;9(2):335-347.
【筆頭著者】Pagano AF
【タイトル】Short-term disuse promotes fatty acid infiltration into skeletal muscle.
【PMID: 29248005】