虚弱高齢者にとって社会的な孤立と主観的な孤独の危険性は?

フレイル
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理学療法士(PT)

【Point 1.】他者とのつながりは、心身の健康のために重要

【Point 2.】フレイルを持つ高齢者にとって社会的な孤立や主観的な孤独感は危険

【Point 3.】身体面だけでなく社会的側面への配慮が必要

高齢者の孤独感と社会的孤立に関心が集まっている。

高齢者の虚弱(フレイル)は、転倒や身体機能低下、入院、死亡と様々なものと関連しています。

「社会的な繋がりの欠如はフレイルドミノの始まり!?」でお伝えしたように、社会的な繋がりの欠如はフレイルへの発展に関与しており、フレイルを持つ高齢者は社会的な孤立を経験することや孤独感を感じることが多いと言われています(参考文献・参考資料①)。

社会的孤立と孤独感はそれぞれ、うつ病、心血管疾患の発症や死亡率の上昇と関連していると報告されており、近年関心が集まっています(参考文献・参考資料②、③)。

二つは似た側面を持ちますが、社会的孤立は客観的に評価され、孤独感は主観的に評価されることから、別々に検討されるべき項目です。

例えば、一人暮らしかつ他者との交流が少ない人は、社会的に孤立していますが、その人が必ずしも孤独感を感じているわけではありません。

しかし、これまでに社会的孤立、孤独感がフレイルを持つ高齢者の死亡リスクに与える影響は分かっていませんでした。

今回紹介する研究では、フレイルを持つ高齢者の死亡リスクに社会的孤立、孤独感がどのような影響を与えているかを検討しています。

データベースで、身体的フレイル、孤独感、社会的孤立を調査

この研究はオランダの高齢者を対象としたThe Longitudinal Aging Study Amsterdam(LASA)と呼ばれる研究のデータを利用しています(参考文献・参考資料④)。

この研究では、LASAの1995-1996年の1720名のデータが利用され、身体的フレイル、孤独、社会的孤立、その他必要な関連項目が欠如しているデータを除外し、1333名のデータが解析対象となりました。

身体的フレイルは体重減少、低握力、疲労感、低歩行速度、低身体活動量の5項目の内、3項目以上該当で判断されました。

一方、社会的孤立は下記の3項目の内、2項目以上該当で判断されました。

・一人暮らし
・社会的支援がない
・社会的なネットワークの規模が小さい(人との関わりが少ない)

孤独感は、De Jong Gierveldの孤独尺度を用いて質問11項目中、3点以上で該当と判断されました(参考文献・参考資料⑤)。

この尺度は「周囲に親しい人や仲間のいない寂しさ」や「相談できる人、身近に感じる人がいるかどうか」などの主観的な孤独感に関する質問で構成されています。

そのうえで、身体的フレイルと孤独感、社会的孤立について下記の組み合わせでグループ分けし、死亡リスクの解析を行いました。

【身体的フレイルと孤独感によるグループ分け】

■ 身体的フレイルと孤独感なし
■ 孤独感のみ
■ 身体的フレイルのみ
■ 身体的フレイルと孤独感あり

【身体的フレイルと社会的孤立によるグループ分け】

■ 身体的フレイル、社会的孤立なし
■ 社会的孤立のみ
■ 身体的フレイルのみ
■ 身体的フレイル、社会的孤立あり

死亡リスクは、身体的フレイルに孤独感または社会的孤立が加わることでさらに増加

対象者の平均年齢は約75歳で、12.5%が身体的フレイル、36.4%が孤独感、36.8%が社会的孤立の状態でした。また、3.6%が身体的フレイル、孤独感、社会的孤立を重複していました。

身体的フレイルと孤独感の組み合わせによる死亡リスクは、身体的フレイルと孤独感なしと比較すると、死亡リスクが高い順に身体的フレイルと孤独感あり、身体的フレイルのみ、孤独感のみとなりました。

社会的孤立との組み合わせでも同様に、身体的フレイルと社会的孤立なしと比較すると、死亡リスクが高い順に身体的フレイルと社会的孤立あり、身体的フレイルのみ、社会的孤立のみとなりました。

まとめると、身体的フレイルのある高齢者は、孤独感または社会的孤立が加わることにより、さらに死亡率が高くなるという結果でした。

身体的な側面だけでなく社会的な側面への配慮を!

今回紹介した研究では、孤独感と社会的孤立がそれぞれ高齢者の死亡リスクを高める要因であることが分かりました。

孤独感や社会的孤立は、「社会的な繋がりの欠如はフレイルドミノの始まり!?」でお伝えした、社会的フレイルと似た側面を持ちます。

しかし、孤独感は本人の「主観的」な指標であり、社会的孤立は「客観的」な指標であるため、それぞれが異なる性質を持っている可能性があります。

それでも、社会との繋がりの欠如はフレイルの始まりであり、その後の機能低下を引き起こす一つの要因であることは違いないと考えられます。

そのため、以前と比べて、他者との関わりが減った人、孤独を感じるようになった人は、家族や友人をはじめとした他者との関わりを意識して生活してみることが大切です。

コロナ禍だから…ではなく、コロナ禍だからこそ、他者との繋がりが必要な時が来ているのかもしれません。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】J Am Geriatr Soc.

【筆頭著者】Emiel O Hoogendijk

【タイトル】Frailty Combined with Loneliness or Social Isolation: An Elevated Risk for Mortality in Later Life

【PMID: 32700319


参考文献・参考資料

  1. Hoogendijk E et al. Adverse effects of frailty on social functioning in older adults: Results from the Longitudinal Aging Study Amsterdam. Maturitas. 2016 Jan;83:45-50.
  2. Cacioppo J et al. Perceived social isolation makes me sad: 5-year cross-lagged analyses of loneliness and depressive symptomatology in the Chicago Health, Aging, and Social Relations Study. Psychol Aging. 2010 Jun;25(2):453-63.
  3. Valtorta N et al. Loneliness, social isolation and risk of cardiovascular disease in the English Longitudinal Study of Ageing. Eur J Prev Cardiol. 2018 Sep;25(13):1387-1396.
  4. The Longitudinal Aging Study Amsterdam(LASA). 2023年1月7日閲覧
  5. De Jong-Gierveld J, et al. The Development of a Rasch-Type Loneliness Scale. Appl Psychol Meas. 1985;9:289-299.