【Point 1.】栄養失調とフレイルは高齢者の健康を脅かし、この2つの病態には似ている点が多い
【Point 2.】栄養失調の人の2/3がフレイルを有していたが、フレイルな人のうち10%しか栄養失調の人はいなかった
【Point 3.】栄養失調とフレイルは必ずしも隣り合わせではないが、高齢者が予防すべきものであることには変わりない
「栄養失調」・「フレイル」とは? また、その定義は?
「栄養失調」とは、栄養を取り過ぎたり取るのが少なすぎたりすることによって、身体を構成する筋肉や脂肪、骨、水分などの状態が変化してしまい、病気になりやすくなってしまう状態のことを言います(参考文献・参考資料1)。
「フレイル」とは、歳を取るにつれて筋力や認知機能が低下し、疲れやすくなり、心身が脆弱(ぜいじゃく)した状態とされています(参考文献・参考資料2)。
フレイルに関しては、以前ご紹介した「老衰や虚弱を指す言葉「フレイル」-実は身近な人もなっている??-」や「近年話題の”フレイル”-高齢者施設での有病率は??-」もご参照ください。
高齢者における「栄養失調」や「フレイル」という状態は、病気になって入院したり死亡したりするリスクを高めることが分かってきており、これら2つの病態を管理・予防することが現代の高齢化社会において大切です。
実は「フレイル」と「栄養失調」は、医学的に共通点が多いとされています。
では、「フレイル」と「栄養失調」はどのくらい関連しているのでしょうか?また、どの程度の人がこれらの症状を有しているのでしょうか?
そこで今回は、10個の選りすぐりの論文をまとめて、「フレイル」と「栄養失調」の世界の有病率とその関連を調べた論文をご紹介します。
世界中の論文を集めて結果を統合
今回の研究では、過去に報告された研究を集めてデータを1つに統合するという方法が用いられています。
過去の論文を集める作業では、「フレイル」・「栄養失調」・「高齢者」というキーワードに関連した論文を挙げており、727本の論文が検索でヒットしました。
これらの論文から、以下の条件を満たす論文のみに論文を絞っています。
- 「フレイル」と「栄養失調」の両方の結果を提示していること
- 「フレイル」の中でも、Friedらが定義した「身体的フレイル」を使用していること
- 「栄養失調」を「簡易栄養状態評価表(MNA)」で定義していること
その結果、10本の論文が選出されました。
なお、この10本のうちの1本は日本人を対象とした論文でした。
ちなみに、Friedらが定義した「身体的フレイル」では、「健常」・「プレフレイル(フレイル予備軍)」・「フレイル」の3つに分類しています。
「身体的フレイル」の診断基準には「体重の減少」、「疲れやすさ」、「歩く速度の低下」、「握力の低下」などの調査項目があります。
また、「簡易栄養状態評価表(MNA)」では栄養状態を「栄養状態良好」・「栄養失調のリスクあり」・「栄養失調」の3つに分類しています。
「簡易栄養状態評価表(MNA)」の診断基準には「体重の減少」、「食欲の低下」、「自力で歩けるかどうか」、「心の病があるかどうか」などが含まれます。
体重の減少や歩行に関する項目は「身体的フレイル」と「簡易栄養状態評価表(MNA)」の中でも似ている診断基準と言われています。
高齢者の2.3%が栄養失調!フレイルは19.1%!
10本の研究から統合された5447人のデータにより、高齢者全体の2.3%が栄養失調、高齢者全体の19.0%が栄養失調になるリスクが高いことが分かりました。
また、19.1%が身体的フレイル、51.6%がフレイル予備軍でした。
栄養失調とフレイルの関連性
今回の研究から、栄養失調を有している人の中には身体的フレイルを有している人が多い傾向が明らかとなりました。
しかしながら、栄養失調を有している人が必ずしも身体的フレイルを有しているわけではありませんでした。
運動と食生活の見直しで栄養失調とフレイルを予防しよう
今回ご紹介した研究では、栄養失調とフレイルの関連を検証しました。
結果として、栄養失調とフレイルは関連はしていますが、必ずしも栄養失調を有している人がフレイルな状態ではないことが分かりました。
以前の記事「老衰や虚弱を指す言葉「フレイル」-実は身近な人もなっている??-」でもご紹介させていただきましたが、フレイルの予防策としては、運動が強く推奨されています。
栄養状態を管理し、栄養失調の状態を予防するためには、食事摂取量の見直しが不可欠です。
例えば、日本では、30歳以上の男性で60g/日、女性で50g/日のタンパク質を摂取することが推奨されています(参考文献・参考資料3)。
特に、フレイルの人の場合は、体重1kgあたり1.2g〜1.5g/日のタンパク質を摂取することが推奨されています(参考文献・参考資料4)。
しかし、これらの基準はあくまで参考値に過ぎません。
持病を有している人などは、医師や管理栄養士、理学療法士などの専門家に相談しながらフレイル・栄養失調の予防をしてみてはいかがでしょうか?
ー紹介文献情報ー
【雑誌名】J Am Med Dir Assoc. 2017 May 1;18(5):374-382.
【筆頭著者】Verlaan S
【タイトル】High Prevalence of Physical Frailty Among Community-Dwelling
Malnourished Older AdultseA Systematic Review and Meta-Analysis
【PMID: 28238676】