運動量と認知機能の関連ー脳の病気に着目してー

基礎知識
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理学療法士(PT)

【Point 1.】多くの高齢者の認知機能が低下する原因として「脳の病気」がある

【Point 2.】脳の病気があったとしても高い活動量や運動能力があれば認知機能を保つことができる!

【Point 3.】歳をとってもアクティブなライフスタイルを送って認知機能低下を予防しよう

高い活動量は認知機能の維持や認知症の予防に繋がる

認知機能とは記憶力、言語能力、判断能力、計算能力などの機能の総称した用語です(参考文献・参考資料①②)

これまでの研究で高い活動量や運動能力は認知機能の維持に繋がることが報告されています(参考文献・参考資料③)

しかし、高齢者の多くは何かしらの認知機能低下に繋がる病態をもっていることがあります。

アルツハイマー型認知症といった脳の病気のある高齢者でも、高い活動量や運動能力を保つことは認知機能低下の予防に繋がるのでしょうか?

今回は、地域在住高齢者の活動量や運動能力が認知機能に関連するのかを脳の病態を交えて調べた研究の結果を掲載します。

※アルツハイマー病:記憶、試行、行動に問題を起こす脳の病気で本邦の認知症の原因の67.6%はこの病気が原因といわれています(参考文献・参考資料①)

死亡する2年前の活動量・運動能力と認知機能を調査!

この研究は高齢者の活動量や運動能力と、アルツハイマー病などの脳の病態や認知機能の関連を調査する観察研究に参加した地域在住高齢者454人(死亡時平均年齢90.6歳)を対象としました。

今回は亡くなる2年前の時点での活動量・運動能力と認知機能の関連を、死亡時に脳の病態を剖検(脳を解剖して調べること)することで調査しました。

活動量、運動能力、認知機能はそれぞれ次のように調査・定義をしました。

■ 活動量:腕に装着する加速度計が内蔵された活動量計を使用して日常生活の活動量を測定

■ 運動能力:巧緻性、筋力、バランス機能などの10項目の総合的なテストを使用(参考文献・参考資料④)

認知機能:複合的な21の認知テストを採点し、認知機能得点とは別にガイドラインに基づいて認知症の有無も判断された(参考文献・参考資料⑤)

■ 脳の病態:死後の脳解剖にて、アルツハイマー病などの9つの病態を調査

高齢者の活動量・運動能力は認知機能に関連する

平均年齢が90歳に近い高齢者の認知機能を調査した結果、次のことが明らかとなりました。

■ 活動量が多く、運動能力が良いと認知機能が維持されていた

■ 脳の病気があったとしても、上記と同様の結果であった

■ 活動量と運動能力の両方が良いと認知症になるリスクが低かった

冒頭でもお伝えしたように、高齢者の多くは何かしらの認知機能低下に繋がる病態をもっていることがあり、今回の報告でも85%の方が該当しました。

つまり「普段の生活で動いている量(活動量)」と「自分ができる動きの程度(運動能力)」のどちらも良好だと、認知機能と関連する脳の病気とは関係なく認知機能が下がりにくく、さらには認知症のリスクも抑えられることが示されました。

運動不足は認知症発症に関連しないという報告もある!?

以前の記事では運動不足は認知症発症に関連しないということを記しています。

以前の報告と比較して、今回の研究の大きな違いと留意する点としては

■ 対象者の身体・認知機能評価時の年齢が高い(死亡時平均90.6歳の約2年前の評価)

 つまり、今回の結果は高齢者全員に言える結果ではなく、超高齢者の結果である可能性が考えられます。

■ 横断的な評価の関連を検討している

 つまり、死亡の2年前の一時期の結果であり、評価以前のライフスタイルは考慮していない。

しかし、今回の研究の1番の新しい知見としては、脳の各病態毎で活動量・運動能力と認知機能の関連には違いがなかったことが挙げられます。

何歳になってもアクティブな生活を!

先行研究では高い活動量が軽度認知症や認知症のリスクを減らすことが明らかになっています(参考文献・参考資料③)。そして、本研究の発見は高い活動量や運動能力がアルツハイマー病などの脳の病気に関わらず、認知機能の維持に起因することがわかりました。

さらに、高い活動量と運動能力はアルツハイマー病などの認知症の症状の進行を軽減する可能性も示唆されました以前の記事でお伝えしたように、日本人の運動不足は今後の課題としても挙げられるため、活動量確保のための指導や呼びかけは必要性を増していくでしょう。

昨今のコロナの状況もあり、日本全体的にも高齢者の活動量は低下していることが考えられます。

感染対策を行いつつ、マスクをつけての散歩や自宅内でのトレーニングを実施するなど、より一層活発な生活を心がけて生活をしていきましょう。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】Neurology. 2019 Feb 19;92(8):e811-e822.

【筆頭著者】Buchman AS

【タイトル】Physical activity, common brain pathologies, and cognition in community-dwelling older adults.

【PMID: 30651386


参考文献・参考資料

  1. 認知症疾患診療ガイドライン
  2. McKhann, G. M. et al. The diagnosis of dementia due to Alzheimer’s disease: recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer’s Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer’s disease. Alzheimers. Dement. 7, 263–269 (2011).
  3. Llamas-Velasco S, et al. Physical Activity as Protective Factor against Dementia: A Prospective Population-Based Study (NEDICES). J Int Neurophychol Soc.  2015;21(10):861–7.
  4. Buchman AS, et al.Incident parkinsonism in older adults without Parkinson disease. Neurology. 2016 Sep 6; 87 (10) :1 036-44.
  5. Bennett DA, et al. Religious Orders Study and Rush Memory and Aging Project. Schneider JAJ Alzheimers Dis.  2018 ;64 (s1) : S161-S189.