日本のフレイル有病率は8.7% ー過去の報告との比較ー

基礎知識
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理学療法士(PT)

【Point 1.】フレイルの有病率にはばらつきがある!?

【Point 2.】65歳以上の高齢者の約半数がフレイルの危険性を有している!?

【Point 3.】運動習慣を身につけてフレイルの予防・改善に勤めよう!

世界的に見たフレイルの有病率は?

フレイルとは、下記のように定義される加齢に伴って身体機能や回復力が著しく低下した状態を指します。

フレイル:身体的・精神心理的・社会的な要素で構成され、要介護状態、脆弱性、死亡のリスクを高める状態(参考文献・参考資料①)

このフレイルは世界的にも注目を集めており、当サイトでもその危険性についてご紹介してきました。

世界的に見ると、地域在住の高齢者(65歳以上)の約1.5~17.6%がフレイル状態に陥っていることが報告されています(参考文献・参考資料②-⑤)

この割合がバラついている原因として、先行研究の対象が全国的なデータではなく、地域ごとに得られたデータから算出されたことが原因と言われています。

そこで今回は、日本の代表的なデータを用いて、全国の高齢者のフレイル有病率を地域別に推定し、社会的特性・健康状態との関係を検討しました。

自宅訪問&インタビューで健康状態をチェック

本研究では「全国高齢者調査」で得られたデータを使用しました(参考文献・参考資料⑥)

この調査は1987年から2017年の期間に60歳以上の地域在住高齢者を対象に実施されたものです。

そのうち、本研究では1987年、1990年、1996年、1999年、2012年に得られた2206名分のサンプルデータを使用しました。

データの収集に当たっては訓練されたインタビュアーが対象者の自宅に訪問し、対面でのインタビューを行いました。

インタビューでは下記の項目を聴取または計測し、フレイルの程度や社会的な特性,健康状態を評価しました。

①「体重減少、倦怠感、低身体活動、歩行速度の遅延、低握力」

②「年齢、性別、配偶者の有無、現在の就労状況、世帯収入」等の社会的な特性

③「喫煙、飲酒、疾患の有無、日常生活における介助の程度」等の健康状態

また、項目①の中に示した5項目の内、3〜5項目が該当すると「フレイル」、1〜2項目が該当すると「プレフレイル」に分類されました。

65歳以上の日本人における8.7%がフレイル状態!

本研究の結果、我が国に在住している高齢者の内、8.7%がフレイルに該当することが明らかになりました。

また、フレイルの前段階であるプレフレイルに該当する高齢者は全体の40.8%に達することも明らかになりました。

したがって、我が国では65歳以上の高齢者の内、約半数が身体機能や回復力が著しく低下した状態、もしくはその可能性が極めて高い状態であるということが示されました。

さらにフレイルの有病率を地域別に見てみると、最も有病率が低かった地域は北海道・東北地方(5.7%)で、最も有病率が高かった地域は九州・沖縄地方(10.7%)でした。

そして、西日本・東日本に大別しても、フレイルの有病率は東日本と比較して西日本の方が高いことが明らかになりました。

(図:紹介文献内容をもとに編集部作成)

社会的な特性や健康状態もフレイルと関連する!

本研究では、世帯収入や社会的地位、就労状況などの項目とフレイルの有病率との関係を追加で解析しました。

その結果、以下のことが明らかになりました。

■年齢が高いほどフレイルの有病率が高くなる
■無職・社会的地位の低い人ほどフレイルになる確率が高くなる
■学歴や世帯収入が最も低い人は、最も高い人の4倍フレイルになる確率が高い

尚、配偶者の有無や性別、世帯構成はフレイルと関連していませんでした。

これらの結果から、仕事をリタイアし、世帯収入が減ってしまうとフレイルに陥る危険性が著しく増加してしまう可能性が示されました。

社会的な繋がりを持った運動習慣を!

本研究では、65歳以上の高齢者の約半数がフレイルまたはフレイルになる危険性を持っている人であることが明らかになりました。

さらに、社会的地位が低く、収入の少ない高齢者であるほどフレイルになる危険性が高くなることも示されました。

フレイルにはいくつかの種類がありますが(参考文献・参考資料⑦)、本研究結果から、高齢者になると社会的な要因でフレイルになる危険性が高くなることが示唆されます。

我が国におけるフレイルの診療ガイドラインでは、フレイルを予防するために、運動習慣を身につけ定期的な運動を行うことが推奨されています(参考文献・参考資料①)

この推奨事項を前提に置いた上で、下記に示す内容を生活に取り入れることをお勧めします。

①こまめに体を動かす

運動習慣を作るためにはお金(スポーツジムなど)をかけなければいけないということはありません。料理や掃除、洗濯や庭の手入れ等、家庭内での仕事を積極的に行い1日の中で身体を動かす時間を増やすことでも筋力低下の予防に繋がります。

②意識的に外出する機会を作る

友人とのランチや犬の散歩、花見など家屋内から敷地内・近隣への散歩を取り入れる事で、出かける習慣を身につけることが大切です。

③共通の趣味を保つ人間関係を形成する

共通の趣味を持つ友人を見つけることも重要ではないかと思います。友人と一緒に趣味活動をすることで、外出機会が増えつつ継続して活動を行うことができるかもしれません。

④自分の役割を持つ

パートナーがいる家庭では、家庭の仕事を全て任せるのではなく、家事を分担して行うことでパートナーとの関係も深まり、それぞれの役割を尊重して心身ともに健康的な生活習慣を身につけましょう。

また、定期的な運動習慣はフレイルだけでなく、脳卒中や心臓病、認知症の予防・改善に寄与することも知られています。

当サイトでもいくつか記事を紹介していますのでぜひ参考にしてみてください!

健康的な生活を身につけて生き生きとした人生を送りましょう!


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】Arch Gerontol Geriatr. 2020 Aug 9;91:104220.

【筆頭著者】Murayama H

【タイトル】National prevalence of frailty in the older Japanese population: Findings from a nationally representative survey.

【PMID:32810734


参考文献・参考資料

  1. 荒井 秀典 (編集). フレイル診療ガイド 2018年版. 日本老年医学会
  2. Beatriz Arakawa Martins, et al. Frailty prevalence using Frailty Index, associated factors and level of agreement among frailty tools in a cohort of Japanese older adults. 2019
  3. Makizako, H., Shimada, H., Doi, T., Tsutsumimoto, K., & Suzuki, T. (2015). Impact of physical frailty on disability in community-dwelling older adults: A prospective cohort study. BMJ Open, 5, Article e008462.
  1. Shinkai, S., Watanabe, N., Yoshida, H., Fujiwara, Y., Nishi, M., Fukaya, T., et al. (2013). Validity of the “kaigo-yobo check-list” as a frailty index. Japanese Journal of Public Health, 60, 262–274.
  2. Yamada, Y., Nanri, H., Watanabe, Y., Yoshida, T., Yokoyama, K., Itoi, A., et al. (2017). Prevalence of frailty assessed by fried and Kihon Checklist Indexes in a prospective cohort study: Design and demographics of the Kyoto-Kameoka longitudinal study. Journal of the American Medical Directors Association, 18, 733.
  3. 全国中高年者の健康と生活に関する日米共同プロジェクト.”長寿社会における中高年者の暮らし方の調査”.JAHEAD.2021/8/5.(2021-9-10)
  4. 公益財団法人長寿科学振興財団.”フレイルとはーその概念と定義を中心として”.健康長寿ネット.2021/3/5.(2021-9-10)