サルコペニア・フレイル・悪液質・低栄養ー重複している人はどのくらい??ー

基礎知識
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理学療法士(PT)

【Point 1.】サルコペニア・フレイル・悪液質・低栄養は高齢者の将来に悪影響がある

【Point 2.】上記4つの症候群が高齢入院患者の多くの人に重複していることが分かった!

【Point 3.】改善・予防するため、体重・食事のチェックや定期的な運動を意識していこう!

サルコペニア・フレイル・悪液質・栄養失調を知っていますか?

「サルコペニア」「フレイル」「悪液質」「低栄養」

皆さんはこれらの言葉を聞いたことがありますか?

それぞれ簡単に説明すると

サルコペニア:加齢に関連した低筋肉量に加えて、筋力および身体機能が低下している状態(参考文献・参考資料①

フレイル:身体的・精神心理的・社会的な要素で構成され、要介護状態、脆弱性、死亡のリスクを高める状態(参考文献・参考資料②

悪液質:癌や腎不全などの基礎疾患によって引き起こされ、脂肪量の減少の有無にかかわらず、体重・骨格筋量の減少を特徴とする状態(参考文献・参考資料③

低栄養:食欲の低下、口腔環境の悪化等により食事量が低下し、身体を動かすためのエネルギー、身体を構成するたんぱく質が生体の必要量より不足している状態(参考文献・参考資料④

サルコペニアやフレイルなどの危険性は広く知られており、当サイトでもそのいくつかをご紹介してきました。

これらの4つの原因には食事量や日々の動いている時間の減少、歳をとる、病気にかかるなどがあります。

したがって、これらはそれぞれ関連しあっている可能性が高く、お年寄りの方に重複して見られるかもしれません。

では、これら4つの症候群が重複している人は果たしてどのくらいいらっしゃるのでしょうか?

今回は、入院している高齢者を対象にサルコペニア・フレイル・悪液質・低栄養の該当率を調査し、それぞれどの程度重複しているのかを調査しています。

高齢入院患者の各症候群の割合を調査!

対象者はドイツの大学病院に入院した70歳以上の高齢者100人としています。

参加者の多くは胃腸炎や腫瘍などの内科的な疾患で入院され、対象の93%は基本的な日常生活動作は自立していました。

入院から72時間以内に以下のような定義で各症候群かどうかを評価し、該当率や疾患が重複した割合、症候群ごとの傾向を調査しました。

■サルコペニア:ヨーロッパのサルコペニアについてのワーキンググループの診断基準に従って、低筋肉量+低筋力or低身体機能(歩行速度)で定義されました(参考文献・参考資料⑤)。

■フレイル:フリードらの診断基準に従って、意図しない体重減少、倦怠感、低身体活動、歩行速度の遅延、低握力の5つの基準の内、3つ以上該当することで定義されました(参考文献・参考資料⑥)。

■悪液質:エバンズらの報告に従って、12か月前と比較して5%以上の体重減少に加えて、低握力、倦怠感、食欲不振、筋量低下、血液検査異常の5項目の内、3項目以上満たすことで定義されました(参考文献・参考資料③)。

■低栄養:MNA-SFという栄養失調の質問紙でスクリーニングを行い、BMI<18.5kg/m2の有無、もしくは意図しない体重減少に、BMI<22kg/m2または除脂肪量の低下のいずれかに該当した場合と定義されました(参考文献・参考資料⑦)。

63%の対象者が少なくとも1つの症候群になっていた

各症候群の割合を調査し、以下のような結果になりました。

■ 対象者の各症候群の割合はサルコペニア42%、フレイル33%、悪液質32%、栄養失調15%で、63%の人に少なくとも1つの症候群があった。

■重複している症候群の数別の割合は、1つのみが32%、2つが11%、3つが12%、4つすべてが8%であった。

図を見ていただくとわかるように、4つの症候群は密接に関連していることがうかがえます。

1年間での大幅な体重減少に注意!?

その他の結果として以下のことが明らかになりました。

■1年間の体重減少が5~10%以上ある人は、サルコペニア・フレイル・悪液質になりやすい

■さらに栄養不良の対象者全員に体重減少が起き、その多くが食欲不振であった。

■栄養不良のある対象者の80%でサルコペニア、93%が悪液質、53%がフレイルであった。

この結果から筆者らは、栄養不良が大きな原因となり他の症候群と関連していると考察しています。

このことから、食事摂取量の低下→栄養不良→体重減少(筋肉量低下)→各4つの症候群の発症という経過が考えられるかもしれません。

その他にも、筋力低下、身体活動量の低下等も4つの症候群と強く関連していることから、身体活動の維持にも努める必要があると考えられます。

日々の身体・生活のチェックをしてイキイキした生活を!

今回の研究の新しい知見としてはサルコペニア・フレイル・悪液質・栄養不良の4つの症候群を同時に調査して重複の割合を検討したことであり、その結果多くの方に重複して該当する可能性があることがわかりました。

今回述べた症候群にあてはまっているかな?と感じたら以下のことを確認してみましょう!

体重は維持できている?

自分の体重を適宜測定して、もし1年間で5%の体重減少がある人は食事量が減少していないかなど適宜チェックしていきましょう!

日々の活動量は減っていない?

以前の記事では日本人が日々生活する上での活動量が低下していることや活動量は認知機能に影響する事などを紹介しています。

以前の記事でお伝えしたように、日本人の運動不足は今後の課題としても挙げられています。

そのため、活動量の維持にも努め、今回の症候群の予防を心がけていきましょう。

もちろん原因はこれだけではありませんが、転倒や病気のリスクを減らしてイキイキとした生活ができるように日々過ごしていきましょう!


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】BMC Geriatr. 2019 Apr 27;19(1):120.

【筆頭著者】Gingrich A

【タイトル】Prevalence and overlap of sarcopenia, frailty, cachexia and malnutrition in older medical inpatients.

【PMID: 31029082


参考文献・参考資料

  1. Chen LK,et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300–7e2.
  2. 荒井 秀典 (編集). フレイル診療ガイド 2018年版. 日本老年医学会
  3. Evans WJ,et al. Cachexia: a new definition. Clin Nutr 2008; 27:793–799
  4. 厚生労働省,e-ヘルスネット
  5. Cruz-Jentoft AJ,et al. Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing. 2010;39(4):412–23.
  6. Fried LP,  Tangen CM,  Walston J, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype, J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2001:56(3):M146-56
  7. Cederholm T, Bosaeus I, Barazzoni R, Bauer J, Van Gossum A, Klek S, et al. Diagnostic criteria for malnutrition – An ESPEN consensus statement. Clin Nutr 2015; 34: 335– 340.