血圧のコントロールはフレイルの有無で分けるべき??

基礎知識
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理学療法士

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【Point 1.】高血圧症の治療で血圧のコントロールを行うと心臓病などの予防に繋がる

【Point 2.】フレイルな人を対象とした場合、血圧の高さで死亡率に差が無いことが分かった!

【Point 3.】低血圧症状を避けて活動量を維持した方がフレイルな人には効果的なのかもしれない

高齢者の血圧目標値

現在のところ、75歳以上の高齢者の場合、収縮期血圧を140 mmHg 以下にコントロールすることがガイドラインで推奨されています(参考文献・参考資料1)。

75歳未満の成人では収縮期血圧を130 mmHg 以下に保つことが推奨されており、高齢者の基準は少し高めに設定する方が望ましいと考えられています。

一方で、「老衰や虚弱を指す言葉「フレイル」-実は身近な人もなっている??-」でもお伝えしたように、近年では歳を取るにつれて体力や回復力などが低下した状態として「フレイル」が着目されています。

では、果たしてフレイルの有無によって血圧や健康状態に違いがあるものなのでしょうか??

過去に報告された論文の結果を統合

今回ご紹介する研究は、メタアナリシスと呼ばれる手法を用いて行われました。

メタアナリシスは過去に報告された論文の結果をまとめて再解析する手法で、正しく行われた場合、得られた結果の価値は高いとされています。

この研究ではまず初めに、論文検索サイトを用いて過去の論文を検索しました。

その結果、検索でヒットした論文は8,326本ありました。

次に、検索でヒットした論文から今回の研究のテーマ「血圧とフレイル」に関係のないものを除外していきました。

その際、65歳以上の地域在住高齢者を対象とした報告以外の論文は除外することにしました。

主なアウトカムは死亡としました。

なお、「近年話題の”フレイル”-高齢者施設での有病率は??-」でもお伝えしたように、フレイルの定義は様々なものがあります。

今回の研究では複数の研究で「有用である」と示された定義を用いた報告のみを採用することにしました。

合計の対象者数約22,000例!

上述した条件に合わせて論文を選別した結果、最終的に9本の報告が採用され、その合計対象者数は21,906例でした。

対象者の中には過去に心筋梗塞や脳梗塞などを発症した方を含んでいました。

合計した対象者の平均年齢は81歳で、女性の割合が59%でした。

合計した対象者の37%でフレイルが確認されました。

また、対象者の48%で高血圧症の診断がされており、降圧薬(血圧を下げる薬)を服用していた対象者は全体の52%でした。

フレイルがあると血圧コントロールの効果はなし??

続いて、フレイルな人を対象とした場合の解析結果をご紹介いたします。

フレイルな方の収縮期血圧を140 mmHg 以下にコントロールした群と比較して、140 mmHg より高くコントロールされていた群との間に、死亡率の差はありませんでした。

つまり、血圧を低くコントロールされていたとしても死亡率に変わりはないことが示されました。

フレイルでない人は血圧のコントロールが有効!!

最後に、フレイルでない人を対象とした場合の解析結果をご紹介いたします。

フレイルを有していない場合、血圧を140 mmHg 以下にコントロールした群と比較して、140 mmHg より高くコントロールされていた群では死亡率が高いことが分かりました。

つまり、血圧を低くコントロールすることによる効果が示されました

フレイルな人は血圧を低く保つ必要がないのか?

フレイルを有している対象者に限定すると血圧の高さで死亡率に差が無いことが今回ご紹介した報告の結果から示されました。

では、フレイルな人は血圧を低く保つ必要はないのでしょうか??

残念ながら、今回ご紹介した報告のみでは明確にお伝えすることは出来ません。

例えば、今回の解析では過去に心臓病を患ったことのある人が含まれていました。

我が国では糖尿病や慢性腎臓病、心臓病などを患っている場合、さらに血圧を厳格にコントロールすることが推奨されています(参考文献・参考資料1)。

しかしながら、今回の報告ではこのような症例を含めた解析となっていますので、結果に少なからずとも偏りが生じている可能性があります。

定期的な運動が血圧にもフレイルにも効果的!

今回の研究から高血圧とフレイルにおける健康状態への影響は明らかにされませんでした。

しかし、高血圧症やフレイルは健康状態に影響する可能性はすでに述べられており,何れにせよ定期的な運動などにより活動量を確保することは大切です。

一方で、今回の研究で改めて確認されたように、フレイルでない高齢者では血圧をしっかりコントロールすることが死亡率を下げるのに効果的である事が改めて示されました。

血圧が高い方には、血圧を下げる降圧薬が処方される場合もありますが、まず優先的に行われるのが「食事や運動」といった生活習慣の是正です(参考文献・参考資料1)。

高血圧治療ガイドライン2019では「自覚的に “ややきつい” と感じる程度の運動を行う事が推奨されている」と記載されています。

また「高齢者が定期的に運動すると運動機能は良くなる??ー28の論文からー」でもご紹介したように、フレイルな人は身体を定期的に使うことが効果的であると言われています。

今回の報告では詳細を確認できていませんが、血圧のコントロールもフレイルの有無も定期的に運動を行っていくことがひとつのカギとなるでしょう。

今後の研究に期待したいところです。


ー紹介文献情報ー

【雑誌名】Age Ageing. 2019 Jun 5. pii: afz072.

【筆頭著者】Todd OM

【タイトル】Is the association between blood pressure and mortality in older adults different with frailty? A systematic review and meta-analysis.

【PMID: 31165151